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せめて 抱きしめて〜承〜 1
承
それ以来ボクは真面目に授業を受け始めた。
理由は単純で、T大に行こうと思ったから。
ボクみたいなバカがいくら勉強してもムダかもしれないけど、やらないよりはやってみた方がいいと思った。
ボクが入学する時には、剛さんはもう卒業しているけれども、それでもいい。
目標を決めて動くことに、意味がある。
結果はどうだろうと、そこに意味はあると思うから。
大学に入ったら後、どうするのかは決めてないけど、ゆっくり考えていこう。
いつも授業をサボっていたので、ボクが急に真面目に出席しているのを見て、教師はみな一様(いちよう)に驚いていた。
昼休みもコンビニのおにぎりやサンドイッチを食べながら、教室で勉強していた。
そして、放課後になったら誰にも捕まらないように、猛ダッシュで学校を飛び出した。
セフレの相手をしたくなかったので、ボクはここ最近逃げ回っていた。
昼休みなんかに犯らせて欲しいと言ってくる人がいるが、ボクは片っ端から断っていた。
もうセックスしなくても大丈夫だった。
他にやりたいことができたからかもしれない。
体が疼(うず)くこともなかった。
ボクは今日も学校を飛び出して、ファミレスへと向かった。
早く剛さんに会いたかった。
剛さんは普段昼間にファミレスでバイトをして、夕方に部活へ行く。
もちろん授業がある時はバイトは休んでいるが、高校生の頃から続けているので、シフトで我儘(わがまま)を聞いてくれるらしい。
今日はどっちにいるかわからないけど、一旦近いほうのファミレスへ向かう。
ファミレス特有のガラス張りの建物が見える。
店の中で、ウェイターの制服を着た剛さんが、お客さんに料理を届けているのが見えた。
背が高いので、すぐに見つけられる。
ボクはガラス越しに剛さんを見つめる。
真面目に働いている姿が、カッコイイと思った。
剛さんは、視界の隅にボクが入ったのか、ふとこっちを振り向いた。
目が合ったので、ボクは思わず小さく手を振ってしまった。
顔が自然と笑顔になっていることに気付いて、恥ずかしくなってしまい、手を振るのをやめかけたら、剛さんがふっ・・・と笑って、2〜3回手を振り返してくれた。
ボクは嬉しくなって、そのまま店の入り口へと向かい、扉を引いた。
ピンポーンと電子音が響いて、そのまま中に入ると剛さんが来てくれた。
「いらっしゃいませ」
笑いながら剛さんはそう言って、ボクの傍に来る。
「オレ、そろそろ上がるんだけど、どうする?」
「え?!・・・じゃあ外で待ってます」
何かを食べたいわけじゃないので、ボクはそう言って外に出ようとする。
「千都星、そこの椅子に座ってて」
剛さんは慌ててそう言うと、待つ人が座る椅子を指差した。
ボクは頷くとその椅子に大人しく座った。
剛さんは面白そうにくすくす笑いながら店内に戻って行った。
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