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せめて 抱きしめて〜承〜 2

ボクはそのまま剛さんが来るのを待った。 二度目に会った時に、剛さんに連れられてこのお店に来て以来、ボクは常連客となっていた。 もちろん、剛さんに会いに来ているだけなので、いなかったら大学の方に向かうし、こうしてただ待っているだけの時もある。 そうやって何度も会いに来ていたら、最初ボクのことを姓で呼んでいたのに、いつの間にか千都星と名前で呼んでくれるようになった。 それに倣(なら)って、今ではボクも名前で呼ぶようになっていた。 そうやって名前で呼び合っていると、何だか恋人になったようで、くすぐったくて嬉しくて、胸が一杯になる。 今では、ほぼ毎日こうして一緒にいる。 土日は授業はないけど部活はあるので、剛さんは大学に行く。 ボクもこっそり忍び込んで、マネージャーのような扱いで、みんなの飲み物を用意したりしていた。 もちろん正規マネージャーがいる。 初めてT大へ行った時に会った女性で、名前は原野耀子(ようこ)さん。 ボクが高校生だと聞いて嫌がっている。 もちろん部外者が入り込んだら、怒られるのは自分達だからだ。 それでも剛さんは、みんなは高校生だって知らないことにすればいいって説得してくれた。 責任は自分が持つと、言ってくれた。 すごく嬉しかった。 ボクがいてもいいと、剛さんは言ってくれた。 何処にも居場所がなかったボクに、居場所をくれた。 疎(うと)まれているボクに、ここにいていいと言ってくれた。 絶対に剛さんに迷惑はかけたくない。 もしバレたら、全部の責任を負うつもりだった。 剛さんには、迷惑かけられない。 きっとボクが一人ぼっちな事を察して、優しく受け入れてくれている剛さんには、絶対に。 最初剛さんの後ろに隠れているボクを、みんな訝(いぶか)しそうに接していたが、何回か会う内に慣れたのか、普通に話しかけてくれるようになった。 柔道をやっているせいか、みんな紳士で、ボクがこんな容姿をしているせいか、女性に接するように優しい。 むしろ本物の女性である原野さんは男扱いしていた。 そのことも原野さんは気に食わないようだったが、少しずつ仕事を手伝わせてくれるようになった。 原野さんの自宅が柔道場を経営しているらしい。 そのため原野さんも柔道をやっており、剛さんはその道場に子供の時から通っていた。 だから、二人は幼馴染みなのだ。 ボクが知らない剛さんを知っている。 何だか羨ましくて、妬ましかった。

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