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せめて 抱きしめて〜承〜 3

ゆっくりと部に馴染(なじ)んでいくボクを、剛さんはただ黙って見ていてくれた。 友達の作り方すら忘れていたボクに、思い出させるように、見守ってくれる。 温かい。 もうずいぶん長いこと忘れていた。 他人との会話の仕方、距離の取り方、気の使い方・・・全部剛さんが思い出させてくれた。 毎日が楽しくて、嬉しくて、充実した日々を送っていた。 剛さんが着替えて来るまで座って待っていると、夕方なので学校帰りの生徒が多く来る。 この辺りには学校が多いので、そこの生徒だろう。 座っているボクを客だと思い、後ろに並んで待とうとするが、店員が案内してくれるので、行列を作らずに済んでいた。 しばらく待ってると剛さんがいつものように、Tシャツにジーンズで迎えに来てくれた。 ボクはすぐに椅子から立ち上がると、剛さんの隣を歩く。 剛さんは典型的な男の人なので、不器用で無口だ。 普段あまり喋(しゃべ)らないので、こうして一緒にいる時は、ほとんどボクが一方的に喋る。 剛さんは、それを黙って聞いてくれて、時折質問してきたり、たまに何かを話してくれる。 あまり喋る人じゃないのに、二度目に会った時は妙に饒舌(じょうぜつ)だったことを聞いたら、あの時は緊張していて何か話さなきゃと、無理やりだったらしい。 本当に、不器用なのだ。 そこが可愛いと思った。 ボクは駅で着替えて私服になり、剛さんと一緒に大学へ行く。 もう慣れた道で、初めて来た時みたいにおどおどすることはなくなっていた。 今日は2週間後に大会があるので、試合形式での実践練習をするらしい。 五人ずつ二つのチームに分かれて、先鋒 → 次鋒 → 中堅 → 副将 → 大将の順で戦い、3人以上勝った方が勝ちというルールらしい。 ボクは初めて見る試合に少しわくわくしていた。 原野さんは小さい頃から柔道をしているので、ルールはばっちり覚えている。ボクは全然知らないので、この前原野さんにルール本を借りていた。 ここに出入りするならルールくらい覚えなさいと、怒られて無理やり押し付けられた。 それでも、ここに来てもいいと認めてくれたことが、わかった。

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