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せめて 抱きしめて〜承〜 9
「・・・迷惑じゃ・・・」
「迷惑だったら言わないだろ。オレが送りたいんだ」
剛さんはそう言うと、ボクの手を引っ張った。
駅までみんなで移動する。
その間、剛さんはボクの手をずっと引っ張ってくれた。
握られた手から、体が熱くなっていく。
剛さんに欲情しているのがわかった。
どうしようもなく、抱かれたい。
ダメ・・・剛さんはそんなこと考えてない。
ただ、ボクが女みたいにひ弱だから、心配してくれてるだけなんだから。
みんな自分の家の駅まで行く電車に乗り込む。
ボクの家の方に行く電車はボクだけなので、剛さんはわざわざ遠回りになる。申し訳ないと思いつつ、二人になれるのは、嬉しかった。
電車に乗るとさすがに手を離して、吊り革に捕まる。
剛さんが隣に立っているのが、少しくすぐったい。
すぐ次の駅で、剛さんの前の席が空いた。
剛さんはボクを座らせようと思ったらしく、ボクの方を一瞬見たが、乗って来たおばあちゃんが視界に入ったらしい。
すぐにおばあちゃんに席を勧める。
おばあちゃんがお礼を言いながら座った。
剛さんが、ごめんって感じでボクを見て来たので、ボクはにっこり笑って首を振った。
当たり前のことなのに、なかなか出来ない人が多い中で、さらりと出来る剛さんを、尊敬していた。
剛さんはほっとしたように、表情を和らげた。
そのまま電車に揺られて20分。
ボクの家の駅に着いたので、一緒に降りた。駅から家まではボクが先導するしかないのに、何故か剛さんが手を引っ張った。
きつく手を握って、ボクに歩幅を合わせて歩く。
男同士で手を繋いでいるから、周りの人になんて思われているのか。
少し気になるけど、そっちよりも剛さんがどうして手を繋いでくれるのか、それが気になって頭がぐちゃぐちゃだった。
何も言わずに、ゆっくりと歩く。
少しでも一緒にいたくて、わざとゆっくり歩く。
すっかり暗くなったいつもの道が、月明かりに照らされて、何だか幻想的に見える。
紺色の空が、とても綺麗。
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