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せめて 抱きしめて〜承〜 11
「わざわざありがとうございます」
「いや・・・別にオレが送りたかっただけだから」
「本当に、ありがとうございます」
ボクが門の取っ手に手をかけて、開けようとしたら、不意に剛さんがその手を掴(つか)んで、引き寄せた。
「え・・・」
驚いて顔を上げると、剛さんの顔がすぐ目の前にあった。
ふと、口唇に温かい感触。
柔らかい感触。
剛さんの口唇だった。
ボクは動けないでいた。
びっくりしすぎて、何もできなかった。
目を閉じることすら、できなかった。
剛さんの頭の向こうに、月が見えた。
銀色に光る満月だった。
触れたのは、ほんの1〜2秒だったのだろう。
それでも、ボクには途方もなく長い時間だった。
口唇が離れる。
剛さんと瞳が合った。
その途端、剛さんはボクから急いで離れると、
「あ・・そのごめん・・・えっと・・」
何を言ったらわからないようで、自分の行動がよくわからないみたいで。
剛さんはとにかく慌てて、あたふたして、頭をかいたり鞄をいじってみたりした後に、急に、
「じゃあ、お休み!」
と言うと、来た道を一気に走り出してしまった。
その背中を見送りつつ、ボクはまだ頭が動いていなかった。
何が起きたのか、わからない。
ボクは自分の口唇に触れた。
剛さんの口唇の感触を思い出すように。
ボク・・・今・・・キスされた?
剛さんに?
・・・キス・・・。
そこまで理解すると、一気に恥ずかしくなった。
顔が一気に熱を持つ。
きっと真っ赤になっている。
ボクは急いで通用門から家の中に入り、鍵をかけると2階の自分の部屋飛び込んだ。
そのままベットへダイブする。
嘘?!
嘘!
本当に?!
本当にキスだった?
ああ、でも何度思い返しても・・・あれはキスだった!!
枕を抱きしめて、ボクはベットの上をごろごろと転がった。
剛さんとキスしちゃった!
剛さんとキスしちゃった!
剛さんとキスしちゃった!
ひとしきりごろごろして、うつ伏せで止まる。
枕を胸に抱きしめたまま、恐る恐る自分の口唇に触れる。
どうしよう、ドキドキする。
心臓がばくばくしてる。
嬉しくて恥ずかしくて、こんな気持ちは初めて。
今までもっとすごいこと一杯してるのに。
色んな男のしゃぶってるし、激しいキスだって、何十回としてる。
それなのに、こんなにドキドキする。
ああ・・・どうしよう・・・剛さんが好き。
好きなんだ。
どうしようもなく会いたかったのも、一緒にいたいって思ったのも、あの人が好きだったから。
恋をしていたから。
わかってしまった。
自分の気持ちに気付いてしまった。
人を好きになったことが、恋をすることが、初めてだった。
恋よりも先にセックスを覚えた。
心のない、ただの肉欲だけを覚えてしまった。
傷つくことを覚えてしまった。
蔑まれて踏みにじられることを覚えてしまった。
だから、恋なんて知らなかった。
こんな感情は、初めて知った。
「好き・・・剛さんが好き・・・」
そう呟いて、ボクはまた枕を抱きしめた。
生まれて初めての戀(こい)を、抱きしめた。
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