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せめて 抱きしめて〜承〜 12
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次の日。
ボクはどんな顔をして会えば良いのかわからなかった。
それでも、ボクはいつもの時間に起きて、お昼前に柔道場に到着していた。
しばらく出入り口付近をうろうろして、どうやって入ろうか悩んでいたが、もうどうしようもないってわかっていたので、意を決していつも通りに入っていった。
みんなもう練習していて、剛さんも普通にいる。
剛さんを見た途端に、また昨夜のキスを思い出して、頬が熱くなるのを感じた。
ボクは平常心を自分に言い聞かせて、いつも通り振る舞った。
剛さんもいつもと全く同じように接してくれた。
いつも通りと思っていても、剛さんの顔をあまりまともに見れなかった。
恥ずかしくて、顔が赤くなってしまうから。
それでも二人だけの秘密ができたことに、ボクは舞い上がっていた。
剛さんがどういうつもりでキスをしてくれたのか、わからないけど。
ただの気の迷いかもしれない。
ボクの顔は母親譲りの整った顔をしているから、ちょっと気が迷っただけかもしれない。
でも、ボクはそれでも構わなかった。
気が迷ったということは、少しは希望があるから。
これから頑張って、もっと積極的になれば、剛さんが好きになってくれるかもしれない。
そのために、この顔が武器になるなら、大いに使わせてもらう。
そう思っていても、感情が追いつかないみたいで、ボクは剛さんになかなか近づけないでいた。
本当は二人で話したいのに、剛さんが話しかけてくれても、まともな応対ができない。
それなのに、剛さんが離れると淋しくなる。
ついつい瞳で追ってしまう。
ああ・・・恋ってなんて厄介なんだろう・・・。
何もかもが初体験だから、どうしたらいいんだろう・・・。
相談できる相手もいないので、ボクは自分の気持ちを持て余していた。
そしてとうとう別荘に行く日になってしまった。
ボクは遠足前の小学生のようになかなか眠れず、朝5時に目が覚めていた。
何度も荷物をチェックして、服装をチェックする。
山の中で川があって、川原でバーベキューをするらしい。
そういうことを考えると、動きやすい服がいいだろうと思って、Tシャツにストレッチの効いた黒のズボンにした。
山なので夜冷えるかもしれないから、薄手の上着も持った。
靴は歩きやすいようにスニーカーにした。
そんな風にあれこれとして、遅れちゃいけないので、6時には家を出てしまった。
早足で駅まで行って、誰もいない駅で電車を待つ。
ほぼ始発の電車はなかなか来なくて、10分ほど待ってやっと来た。
中には誰も乗っていなかった。
ボクはいつものように、大学の駅を目指す。
20分で着くことはわかっている。
何だかんだで6時40分頃に駅に着いた。
ボクはボストンバックを肩にかけて、待ち合わせの駅前に急ぐ。
もう誰か来てるかな・・・。
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