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せめて 抱きしめて〜承〜 15
渋滞にはまることもなく、スムーズに車は進み、途中SAで休憩したりした。気付くと山の中に車が進んでいく。
中学生の時とは違う場所へと向かっている。
あの時はもっと南だったけど、今は西の方へ向かっていた。
そのことにすごく安心する。
思い出したくない思い出だった。
山に入ると樹々の緑が都心よりも深い色をしていて、とても鮮やかで
綺麗だ。
何ていう名前なのか知らない鳥も多く見かける。
そして山道でお約束の看板。
さすがに『熊注意』はないけど、鹿や猿の看板はあった。
山の中腹くらいまで登り、お昼前には目的の別荘へ到着していた。
別荘に着くと、それぞれの部屋を割り当てられて、ボクと燿子さんは一人部屋、あとの6人は2人一部屋になった。
本当は剛さんと一緒の部屋がいいけど、いきなりそんなこと言い出したらびっくりさせちゃうから、我慢した。
荷物を奥と近くの川原に行き、毎年やっているというバーベキューが始まった。
どっさりと買い込んでいた食材を切り分け、焼いていく。
ボクは燿子さんが主導して野菜やら肉やら切り分けるのを、手伝っていた。
剛さんがみんなに指示を出して、炭に火を起こしたり、緊急用のバケツを用意したり、慣れた様子で準備をしているのを、ボクは横目で見つめていた。
剛さんが切れた食材を持って行き、鉄板で焼いては、紙皿に乗せてお腹を空かせているみんなに配っている。
ボクと燿子さんの分もちゃんと持って来てくれた。
剛さんが焼いてばかりなので、ボクは遠慮したが、熱中症になると心配してくれて、飲み物と食べ物を持って来てくれた。
剛さんだってずっと鉄板のところにいるから、汗びっしょりなのに、周りの人のことを心配している。
そんな優しさが大好き。
ひとしきり食べて満足した一人が、剛さんと交代して焼き始めた。
野菜類を全部切り終えたボクと燿子さんも、座って食べる。
こんな風に外でバーベキューなんてするのが初めてなので、ボクはすごくはしゃいでいた。
料理もすごく美味しい。
ただ焼いただけなのに、こんなに美味しいのは、みんなと一緒にいて、自然の中で食べるからかもしれない。
上機嫌のボクを見て、燿子さんが少し呆れたように、でも嬉しそうに笑っている。
がりがりなんだからもっと食べなさい、と言って自分が食べきれなかったものをボクのお皿に置いていく。
ボクもあまり一杯食べられないけど、今日は美味しくていつも以上に食べてしまった。
お腹が苦しい。
川のせせらぎを聞く。
鳥の鳴き声を聞く。
降り注ぐ太陽を感じる。
自然の中にいることが、とても気持ち良かった。
川で遊ぶと言って男性陣は、パンツだけになって行ってしまう。
ボクも誘われたけど、剛さんの前で肌を見せるのが恥ずかしくて、逃げてしまった。
ボクと耀子さんは後片付けをして、別荘へ戻った。
どうせすぐお腹空いたって言うからと、夕飯の支度を始めた。
恒例のカレーにすると言うので、ボクも手伝う。
8人もいるしよく食べるスポーツ選手なので大鍋で作って、ご飯も一升炊いた。
そんな感じで1日が過ぎていく。
何だかほとんど料理をしている気がする。
自炊を一切しないので、全然料理ができないボクは、耀子さんに怒られながら、笑われながら手伝った。
お風呂は各部屋にユニット式のがあるので、他人を気にしなくていいのが良かった。
夜の12時を過ぎて、さすがに朝が早かったので、みんな眠くなりそれぞれの部屋へ引き上げて行った。
ボクも昨夜あまり寝れなかったので、少し眠くなり、シャワーを浴びて寝る準備をしていた。
髪を乾かし終わった時に、ドアがノックされた。
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