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せめて 抱きしめて〜承〜 16

もうみんな寝たはずなのに・・・12時半過ぎてるし・・・。 びくびくして返事をせずに様子を見ているとドアの向こうから、 「千都星・・・オレだけど」 と剛さんの声がした。 ボクは安心すると同時にドアに走って行き、勢い良く手前に引いた。 「どうしたんですか?」 「うん・・・ちょっと出れるか?」 「あ、はい」 ボクは外は冷えるかもしれないと思い、上着を持って剛さんに付いて行った。 外は真っ暗で、街灯がないので闇の深さが都心とは違う。 じっと闇を見つめていると、魂ごと吸い込まれて、二度と出て来れなそうだった。 昼間とは違い鳥の声がしないので、しんと静まり返って、恐いくらいだった。 剛さんはボクを連れ出すと、川とは反対方向に向かって歩く。 途中、道がない所ではボクが転ばないように手を繋いで支えてくれる。 ボクの心臓が異常に早く打っていた。 血液が全身を駆け巡って、体温を上昇させるし、汗もかくし。 恥ずかしくて、顔を赤くして俯きながら歩いた。 無言のまま歩く。 何だか話すのがもったいない気がした。 手から伝わる熱だけが、唯一信じられるものだった。 しばらくすると、不意に樹々がなくなり、開けた空間へ出た。 辺り一面に草が生えている。 草原だ。 こんな場所がこんなところにあるのが、面白かった。 剛さんは、草原の中に連れて行ってくれて、そっと座らせてくれた。 手を離して、ボクは体育座りをする。 草がクッションになってくれて、意外とお尻が痛くなく、むしろ快適だった。 剛さんの顔を見ようと、視線を上に上げた途端、ボクは思わず、 「わあ・・・・すごい!」 と呟いていた。 視界一面に、星がある。 都心で見るよりも、数倍も大きくて、数が多い。 山だから空気が澄んでいるせいだろう、星の光がよく届くのだ。 月も大きく、とても眩しい。 星が気持ち悪いくらい空を覆い尽くす。 一等星だけじゃなく、六等星まで、全部全部見えるみたい。 ずっと眺めていると、自分も星になったような、地球が宇宙の一部だと実感する。

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