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せめて 抱きしめて〜承〜 17
ボクは見惚れていた。
こんな景色は初めて見た。
「すごい・・・綺麗・・・」
感動していると、剛さんが嬉しそうに話し出す。
「良かった・・・どうしても千都星に見せたかったんだ。名前に星が入ってるから・・・千都星に、見せたかった」
ボクは隣に座った剛さんを振り返る。
だからわざわざこんな時間に連れ出してくれたの?
ボクのために?
今までボクにために何かをしてくれた人なんて、いなかった。
ボクは胸が詰まって、息苦しくなった。
そして、泣きそうになりながら、笑った。
「嬉しいです・・・初めて見ました。星が月が、こんなに綺麗だなんて、知らなかった」
「千都星・・・」
剛さんが、少しずつ近づいて来る。
顔がすぐ目の前まで来る。
キスしたい・・・キスして。
そう思っていると、どんどん剛さんの顔が近づいて。
口唇が重なる。
温かい・・・柔らかいキス。
剛さん以外で、こんな優しいキスをしてくれた人はいない。
離れて、また触れる。
何度も何度も、離れては重なる。
温かい。
優しい。
壊れ物のようにそっと触れてくれる。
剛さんが、ボクの頬を優しく撫ぜる。
そしてまた口吻(くちづ)けを。
何度も何度も、剛さんは、ボクの頬にも額にも瞼にも、キスを繰り返す。
ちゅっと音を立てて、キスをしてくれる。
それがくすぐったくて、嬉しくて、ボクはうっとりと瞳を閉じて、剛さんの口唇を感じていた。
不意に剛さんが離れる気配がした。
「・・・ごめん」
剛さんの声。
ボクは驚いて瞳を開けた。
どうして、謝るの?
「気持ち悪いよな・・・男同士なのに・・・ごめん。忘れてくれ」
剛さんはそう言うと、ボクに背中を向けて立ち上がろうとした。
ボクはとっさに剛さんの腕を掴んで、引き止めた。
「どうして・・・どうしてそんなこと言うんですか?」
剛さんはボクがそんなこと言うとは思わなかったらしく、向こうを向いたまま言葉を連(つら)ねる。
「だって、変だろ?男同士なのに・・・おかしいだろ」
どうして?どうしてそんなこと言うの?
ボクは貴方が好きなのに!!
「ボク、今朝怒ってないって言いました。嬉しいって言いました」
「千都星・・」
剛さんがやっと振り向いてくれた。
ボクは目に涙が溜まって来ているのを感じていた。
剛さんの驚いたような顔と、満天の輝く星がぼやけていく。
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