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第せめて 抱きしめて〜承〜 28

カゴを手に取って、剛さんが食材を選ぶのに任せる。 わりと普段から料理をするらしい。 お母さんが亡くなっているので、お父さんと交代で家事をするが、刑事なので基本的にあまり家にいないから、必然的に剛さんが担当になるようだ。 今日は大丈夫なのか不安になったら、今は事件を抱えてるから、帰ってこないらしく、大丈夫だと頭を撫ぜてくれた。 剛さんはハンバーグとサラダを作ると言って、レタスやトマト、挽肉や玉ねぎ、卵なんかを手早くカゴに入れる。 パン粉とかも、何もないというと、それも買い足す。 飲み物もないので、お茶を大きいペットボトルで買った。 二人で持てるように買い物袋を分けて入れる。 剛さんは重い方を自分が、軽いのをボクが持つように分けてくれた。 そうやって一緒に買い物して、荷物を分けて持って、一緒に帰るのが、何だか幸せだった。 心の中が温かくて、一生忘れられない思い出になった。 むっと湿気った空気も、沈んでいく太陽も、朱から紺へ変化する空の色も、うるさい蝉の声も、買い物袋の重さも、額を流れる汗も。 絶対に、忘れたくない、思い出になった。 一緒に家路を辿り、ボクは剛さんを家に招き入れた。 いつもの通用口で靴を脱ぎ、剛さんは礼儀正しく、 「お邪魔します」 とお辞儀をした。 ボクはそんな剛さんが、本当に好きで好きで、堪(たま)らなかった。 「散らかってますけど、どうぞ」 「いや・・・うちより全然綺麗だから・・・」 通用口をあがってすぐがキッチンなので、ボク達は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。 すぐに使うものはテーブルの上に置く。 その後は、剛さんのクッキングタイムとなった。 ボクは剛さんに言われたことを手伝った。 ハンバーグなので剛さんが玉ねぎを刻んで、ボールに入った挽肉と混ぜるのがボク。 ハンバーグに整形するのは二人でした。 剛さんの方が手が大きいので大きめになるし、ボクは手が小さいから小振りになる。 大きさが全然違うのを二人で笑ってお皿に並べた。 焼くのは剛さんが担当して、ボクはサラダを作った。 と言っても、剛さんの言う通りにレタスをちぎったり、トマトを切ったりしただけだけど。 お米すらうちにはなかったけど、重いのでレンジで温めるご飯を買って来た。 二人で作ったご飯を、二人で食べる。 これ以上幸せなことがあるのかな? これだけで、こんなにも満たされる。 ずっと一緒にいられなくれても、それだけで距離が、時間が縮まる気がする。 焼き上がったハンバーグにお手製のソースをかけて、剛さんがテーブルに並べた。 剛さんが作った大きいのが、ボクの前に並べられる。 「ボク、こんなに食べられないから、小さいのでいいですよ」 ふっくらと焼き上がってるので、意外と肉厚なのを見て、ボクは自分の分を皿に盛っている剛さんを振り返った。 剛さんはこっちを見ようとしないで、 「いや・・・それは千都星が食べろ」 「でも」 「・・・オレは千都星が作ったのを食べたいし、千都星にはオレが作ったのを食べて欲しい」 絶対にボクを見ないで、剛さんがそう言った。 また、耳まで真っ赤になっている。 ああ・・・そういう意味だったのか! 剛さんが意図したことがわかって、ボクも顔を赤くした。 剛さんって、こういう恥ずかしいことするから、たまに困る。 でも、嬉しい。

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