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せめて 抱きしめて〜承〜 29

「・・・そういうことなら・・」 「ああ・・・」 微妙な沈黙が落ちる。 でも嫌な沈黙じゃない。 お互い恥ずかしくなって、何を話せばいいのかわからない状態で。 だから、妙にくすぐったい沈黙だった。 剛さんは自分の分を盛って、ボクの隣の席に座る。 ボクが作った小さいハンバーグが3つ乗っている。 量的には剛さんの方が多い。 ボクは思わずくすりと笑ってしまった。 テーブルには、ハンバーグとサラダとご飯、お茶が乗っている。 「じゃあ、食べようか」 「あ・・はい」 「いただきます」 剛さんが、両手をきちんと合わせて、お辞儀をする。 自分にその習慣がないことを思い出して、ボクも慌てて手を合わせた。 「いただきます」 剛さんが作ってくれたご飯。 ボクは感謝を込めてお辞儀をする。 ボクは熱々のハンバーグにナイフを入れた。 肉汁が溢れてきて、玉ねぎの甘い匂いもした。 熱いので火傷しないように気をつけながら、一口食べた。 「・・・・っ!美味しい!」 思わず剛さんを見上げて言うボクを見て、剛さんが嬉しそうに微笑んだ。 「良かった。うちの作り方だから、千都星の口に合うか不安だったんだ」 「本当に、本当に美味しいです」 「ありがとう」 ボクはハンバーグをまた一口食べる。 途端に、舌に強烈な熱を感じた。 「あっ・・・ふいっ・・・!」 「どうした?!」 ハンバーグ冷ますの忘れてた・・・! 出したいくらいに熱いけど、剛さんの前でそんなことができる訳がない。 一緒にご飯食べれるのが嬉しくて、ただこうして傍にいられるのが幸せで。 自分が猫舌なの忘れてた。 手で口を覆って、半開きにした口唇の隙間で、息を吸ったり吐いたりして、ハンバーグを冷ます。 剛さんは、そんなボクを心配そうに覗き込んでいる。 「大丈夫か?熱かったか?」 「うん・・・ボク猫舌なんです・・・」 「火傷したか?」 「大丈夫で・・・」 いきなり剛さんがボクの顎を捕えて、自分の方へ向かせて。 思わず手を口から離す。 「舌、見せて」 剛さんに言われてボクは言われるがままに、素直に舌を出した。 「ああ〜赤くなってんな。痛むか?」 「・・・」 話せないのでボクは頭を軽く上下に動かして答える。 赤くなった舌を出したまま、何度も頷くボクを見て、剛さんがふっ・・・と笑った。 そして、気付いたら剛さんの舌がボクの舌に触れていた。 舌だけのキス。 ボクは目を見開いたまま。 舌を出したまま。 動けなかった。 驚きと、戸惑いと、心が爆発しそうな歓びと。 死んでもいいど思うほどの幸福感で。 動けなかった。

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