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せめて 抱きしめて〜承〜 30

舌が触れていたのはほんの少しの時間で、すぐに離れて剛さんはボクを離してご飯を食べ出す。 ボクに見られないように向こう向いちゃってるけど、首まで赤くなってるのがわかる。 ボクは自分の舌にちょっと触れると、一気に恥ずかしくなって、剛さんから視線を逸らす。 ボクは照れ隠しにフォークを取って、サラダを小皿に取って口に運ぶ。 「あ、サラダ美味しいです」 「そ、そうか。よかった」 ボクが美味しそうに食べているのを見て、剛さんも食べ始めた。 サラダもオリーブオイルとクレイジーソルトをかけて混ぜただけなのに、ドレッシングよりも美味しくて、ボクはずっと笑顔で食べ続けた。 この家でこんな風に食事をするのは、久しぶりだった。 きっともうないだろうと思っていた。 いつもはしんと静まり返っていて、息が詰まりそうなこの家が、何だかいつもより明るく見えた。 食事を終えると時刻はもう21時を回っていた。 お風呂を湧かして、ボクは一緒に入りたかったけど、剛さんが照れて嫌がったので、今日は我慢する。 次のお楽しみにしよう。 剛さんがお風呂に入っている間に、お父さんの部屋から勝手にパジャマを引っ張りだして、脱衣所に置いた。 ボクの服じゃサイズが合わないから。 どうせ帰って来ないんだから、構わないでしょう? 交代でお風呂に入ってさっぱりすると、ボクの部屋で何となくテレビを点けて、お笑い番組を見ながら二人で笑って話した。 そんな何でもない、何気ない時間が、泣きそうに嬉しかった。 この部屋で、たった一人で、泣きながら暮らしていたのが、嘘みたいだった。 ずっと、ずっとこうしていたい。 ずっと一緒にいたい。 剛さんに傍にいて欲しい。 二人でいることを覚えたら、もう一人には戻れない。 もう、一人でいることに、堪えられそうもなかった。 番組が終わって深夜0時近くになった時、剛さんが、 「じゃあ、そろそろ寝ようか・・・何処か部屋空いてる?」 と言ったので、ボクは剛さんのパジャマの裾を引っ張った。 「一緒にいて下さい・・・」 剛さんは困ったように、頭をかく。 困った時の剛さんの癖。 「でも一緒に寝たりしたら・・・オレ我慢できなくなるし」 「我慢しなくていいです!・・・抱いて・・・下さい・・・」 「千都星・・いいの?」 ボクは何度も頷いた。 抱いて欲しいから、泊まって欲しいと願った。 抱き締めて欲しいから、傍にいて欲しいと思った。 「体大丈夫?・・・一昨日も昨日もしちゃったし・・」 「大丈夫です。剛さんだから、毎日抱かれたい・・・です・・・」 言ってから、もの凄く恥ずかしくなる。 何だか卑猥なことを言ってる気がしてきた。 顔が赤くなる。 剛さんの顔をまともに見れなくなった。 思わず俯くと、剛さんがそっと・・優しく抱きしめてくれた。

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