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せめて 抱きしめて〜承〜 31

「ごめん、オレ我が儘で」 剛さんの背中にしっかりとしがみついて、広い胸の中でボクは頭を振る。 「違います。我が儘なのはボクです。一緒にいたくて、一人になりたくなくて、抱いて欲しくて・・・泊まって欲しいって言ったんです」 「・・・千都星」 剛さんが少し体を離して、ボクの頭を両手で包み込むようにして触れる。 ボクは恐る恐る顔を上げた。 嬉しそうに、笑ってくれている。 剛さんは、笑顔のまま口唇を寄せてくる。 ボクは瞳を瞑って、口唇が触れるのを待った。 口唇に柔らかい感触。 もう、何度目かわからないくらいキスしてるのに、まだドキドキする。 変な匂いしないかなとか、歯磨いたし大丈夫だよねとか、余計なことを気にしてしまう。 でも、剛さんに嫌われたくないから、可愛いって思って欲しいから。 緊張して体をガチガチに強張らせているボクを、剛さんが急に抱き上げた。 「ひゃ・・・!」 脇の下と膝の裏を抱え上げられて、お姫様抱っこ状態になる。 ボクは思わず剛さんの首にしがみついた。 スポーツをしているせいか、剛さんは汗をかきやすいみたいで、お風呂に入って冷房の効いた部屋にいるのに、うっすらと汗の匂いがした。 男の人の匂いに、ドキッとした。 匂いが鼻腔(びくう)を通って心の中まで侵入して来る。 体の奥深いところが、熱く疼(うず)く。 欲情しているのが、自分でわかった。 剛さんはボクを抱き上げて、ベットへ歩み寄ると、そのまま優しくゆっくりとボクを寝かせてくれる。 「剛さん・・・」 名前を呼ぶと、額から頭にかけて撫ぜてくれる。 直毛のボクの髪を托(たく)し上げる。 ボクは剛さんのその手を掴んで、頬を寄せた。 「剛さん・・・ボクを・・・恋人にしてくれますか?」 声が震える。 顔を見れない。 もしも、もしも、剛さんが他のヤツらと同じように、ボクをセックスの相手くらいにしか思ってなかったら・・・恐かった。 恋人だと、言って欲しい。 好きだから、大好きだから、恋人になりたい。 好きだと言ってくれたから、その言葉に縋(すが)りたい。 剛さんは、なかなか答えてくれない。 目に涙が溜まってくる。 心が少しずつ沈んでいく。 「やっぱり・・ボクなんかじゃ・・・ダメですか?」 涙が落ちた。 堪えきれなかった。 涙が伝って、剛さんの手を濡らす。 剛さんは、軽く溜め息を吐いた。

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