56 / 112
せめて 抱きしめて〜転〜 2
「ごめん。淋しい思いさせて・・・」
「ううん!大丈夫です。明日、また明日会えるから」
剛さんが不意に、ボクの腰を抱きしめて、引き寄せた。
体が密着してどきどきする。
心臓が一気に早くなる。
剛さんに鼓動が聞こえそうで、恥ずかしい。
剛さんの大きな手がボクの頬を梳(す)いた。
「あんまり可愛いこと言うなよ・・・我慢できなくなる・・」
「え・・?」
後頭部を手で掴まれる。
腰も抱かれていて、動けない。
でも、動きたくない。
このまま抱きしめられていたい。
口吻けを、して欲しい。
剛さんの顔が近づいて来て、ボクは目を閉じた。
相変わらず緊張してしまう。
体を固まらせているボクを、剛さんはしっかりと抱きしめたまま、そっと口唇にキスをしてくれる。
その温もりと、柔らかい感触に浸っていると、口唇を割って舌が入って来た。ボクの舌を探り当てて、強く吸われる。
ボクは腕を首に回してしがみついた。
腰に力が入らない。
頭がくらくらする。
倒れそう。
剛さんの舌を舐めて、吸って、吸われて。
溢れる唾液を飲む。
それでも口唇がずれた時に、唾液が端から流れ出す。
上手く呼吸ができずに、早い息遣いになった時に、剛さんが口唇を離した。
ボクは、はあはあ言いながら、剛さんを見上げる。
きっと、欲情した瞳をしている。
剛さんはボクの顎を伝う唾液を、指で拭き取ると体を放した。
「じゃあ、また明日」
「はい・・・また明日」
少し残念だけどしょうがない。
ボクは満面の笑みで剛さんを見送った。
剛さんは、何度も何度も振り返って、手を振ってくれる。
ボクはずっと、ずっと、剛さんが見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
大丈夫。
淋しくない。
また明日会えるから。
また明日会うことを約束して別れるのは、とても嬉しい。
ともだちにシェアしよう!