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せめて 抱きしめて〜転〜 4
この人は何を言っている?
『気持ち悪い』とか『納得してやる』とか、何を言ってるの?
何で上から目線でそんなこと言われなきゃいけない?
どうして、こいつに納得してもらわないといけないの?
ボクのことなんか、なんにも興味ないくせに!
「あんたのが・・・汚いくせに・・・」
「何?」
思わず口走った言葉に、父が怒りを露(あらわ)にする。
父の全身から溢れる怒気(どき)に、ボクは恐怖を感じた。
いつも、いつもこうして押さえ込まれて来た。
恐怖で体が竦(すく)んで、父の言う通りにしてきた。
でも、今は譲れない。
たった一つの戀(こい)を嘘にはしたくない。
ボクは拳を握りしめたまま、感情が走り出すのを止められずに、まくし立てていた。
「母さんがいるのに、ボクがいるのに、何人も愛人作ってるじゃないか!自分はいつでも正しいって顔して、やってることは汚いじゃないか!家庭なんか無視して、好き勝手して、最低だ・・・」
ボクが言い終わらない内に、父が目の前に来て、平手で頬を殴られた。
パアンっ・・・!と、耳元で大きな音がする。
一瞬眩暈(めまい)がした。
「お前に何がわかる?」
ボクよりも背の高い父を、それでもボクは睨み上げた。
頬が熱くなっている。
「わかんないよ・・・もう何年もまともに話してないんだから、わかるわけないっ!」
持っていた鞄を父に投げつけた。
鞄がお腹に当たっても全く気にせず、ボクを見下ろしている。
ボクが初めてまともに怒っているのを見て、父はボクを観察するように見ている。
それがまた、頭にきた。
「気持ち悪いんなら触るな・・・あんたの予想通りあの人と付き合ってるよ。セックスもしてるよ」
父は何も言わない。
ただ、じっとボクを見ている。
「今まで何人もの男と犯(や)ったよ。セフレだって腐るほどいる。・・・学校なんてセックスしに行ってるだけで、勉強なんかしてない」
淀(よど)んだ空気が気持ち悪い。
吐き気がする。
「まともに勉強してないのに、何で留年しないか知ってる?教師なんて犯らせればテスト問題くれるからだよ。出席日数だって誤摩化してくれるよ!」
「お前はそんなことまでしてるのか・・・」
父が顔を歪める。
眉根を寄せて、ボクを汚いものを見るような目で見る。
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