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せめて 抱きしめて〜転〜 17
「剛さん・・・!」
ボクよりだいぶ身長が高くて、髪が角刈りで、優しい笑みを浮かべている、剛さんがいた。
剛さんは、ボクを見て安心したように息を吐くと、玄関の中に入って扉を閉めた。
「元気そうで良かった。昨日は」
もう止められなかった。
思わずボクは剛さんの胸に縋りついていた。
「剛さん・・・剛さん・・・!」
名前しか出て来なかった。
本当は優勝おめでとうございますとか、今日は行けなくてごめんなさいとか、色々言えばいいのに、全部吹き飛んでいた。
剛さんは急に抱きついて来たボクに少し驚きつつ、そっと、抱きしめて、頭を撫ぜてくれる。
「千都星・・・会いたかった。一番に千都星に報告したくて、飛んで来たんだ」
「剛さんっ」
ボクは剛さんに縋(すが)り付く腕に力を込めた。
急いで来たのだろう。
剛さんが汗だくなことが、Tシャツを通じてわかる。
胸板が厚いので、ボクは背中に腕を回して、全身を預けていた。
「千都星のおかげで優勝したよ」
「違っ・・・ボクなんにもしてないです。何も・・・」
頭を振るボクを、剛さんは強く抱き締めて、不意にキスをしてくれた。
「昨日、様子がおかしかったのは何かあったんだろう?オレの大会があるから、千都星何も言わないでいてくれたんだろう?」
「何で・・・」
「わかるよ。千都星のことばっかり考えて、千都星のことしか見てないから。ごめん。オレ自分のことばっかりで、千都星の話しも聞いてあげなくて。こんなんじゃ彼氏失格だな・・・」
ボクの頭を挟むように包み込んで、剛さんがまたキスをする。
「違う・・・違う・・・剛さんは何も、何も悪くな・・・」
「ごめん、側に居てあげられなくて」
ボクは頭を振り続けた。
それしか出来なかった。
上手く言葉が出て来なかった。
剛さんは何度も口吻けをして、何度も謝ってくれる。
何も悪くないのに、何度も何度も。
軽く口唇が重なった時、ボクは剛さんの首筋に腕を回して、強く引き寄せた。
自分から口を開いて、剛さんの口唇を舌で舐める。
剛さんも同じようにしてくれた。
舌を搦める。
唾液で濡れて、温かくて、とても愛おしい。
長い時間が経ち、荒くなった呼吸をしながら、ボク達は口唇を離した。
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