72 / 112

せめて 抱きしめて〜転〜 17

「剛さん・・・!」 ボクよりだいぶ身長が高くて、髪が角刈りで、優しい笑みを浮かべている、剛さんがいた。 剛さんは、ボクを見て安心したように息を吐くと、玄関の中に入って扉を閉めた。 「元気そうで良かった。昨日は」 もう止められなかった。 思わずボクは剛さんの胸に縋りついていた。 「剛さん・・・剛さん・・・!」 名前しか出て来なかった。 本当は優勝おめでとうございますとか、今日は行けなくてごめんなさいとか、色々言えばいいのに、全部吹き飛んでいた。 剛さんは急に抱きついて来たボクに少し驚きつつ、そっと、抱きしめて、頭を撫ぜてくれる。 「千都星・・・会いたかった。一番に千都星に報告したくて、飛んで来たんだ」 「剛さんっ」 ボクは剛さんに縋(すが)り付く腕に力を込めた。 急いで来たのだろう。 剛さんが汗だくなことが、Tシャツを通じてわかる。 胸板が厚いので、ボクは背中に腕を回して、全身を預けていた。 「千都星のおかげで優勝したよ」 「違っ・・・ボクなんにもしてないです。何も・・・」 頭を振るボクを、剛さんは強く抱き締めて、不意にキスをしてくれた。 「昨日、様子がおかしかったのは何かあったんだろう?オレの大会があるから、千都星何も言わないでいてくれたんだろう?」 「何で・・・」 「わかるよ。千都星のことばっかり考えて、千都星のことしか見てないから。ごめん。オレ自分のことばっかりで、千都星の話しも聞いてあげなくて。こんなんじゃ彼氏失格だな・・・」 ボクの頭を挟むように包み込んで、剛さんがまたキスをする。 「違う・・・違う・・・剛さんは何も、何も悪くな・・・」 「ごめん、側に居てあげられなくて」 ボクは頭を振り続けた。 それしか出来なかった。 上手く言葉が出て来なかった。 剛さんは何度も口吻けをして、何度も謝ってくれる。 何も悪くないのに、何度も何度も。 軽く口唇が重なった時、ボクは剛さんの首筋に腕を回して、強く引き寄せた。 自分から口を開いて、剛さんの口唇を舌で舐める。 剛さんも同じようにしてくれた。 舌を搦める。 唾液で濡れて、温かくて、とても愛おしい。 長い時間が経ち、荒くなった呼吸をしながら、ボク達は口唇を離した。

ともだちにシェアしよう!