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せめて 抱きしめて〜転〜 18

それでも離れたくなくて、ボクは剛さんの胸に顔を埋めた。 剛さんの心臓の音がする。 何だか早い鼓動が聞こえる。 ドキドキしてるの? 剛さんはボクをぎゅっと抱き締めている。 嬉しくてどうにかなりそう。 そうやって長い時間、ボク達は抱き合っていた。 ボクはやっと落ち着いて来ると、剛さんを家に上げずにずっと玄関にいることに気が付いた。 ゆっくり体を離して、顔を上げた。 「今日・・・泊まれますか?」 断られると思いながら言った。 きっと、今日の優勝をお父さんに報告するだろうから。 意外にも剛さんは、にっこり微笑んで、 「そのつもりで来た。今日は千都星と一緒にいたい」 と言って、額にキスをしてくれる。 ふんわりとした、包み込まれるような感覚に陥る。 ボクは照れながら、 「上がって下さい。すみません、ずっと玄関に立たせてて」 「気にしてないから。お邪魔します」 くすくす笑いながら、剛さんが靴を脱いで廊下に上がる。 その時、剛さんが鞄とは別にビニール袋を持っていることに気が付いた。 「それ・・・」 ボクの視線に気付いた剛さんが、ビニール袋を持ち上げて、 「夕飯の材料。千都星の事だからまた食べてないんだろう?」 「うん・・・起きてから何も・・・」 「やっぱな。ダメだろ、ちゃんと食べなきゃ」 「ごめんなさい」 すんなりとそんな言葉が出た。 親にもこんなに素直に謝ったことはない。 剛さんに対してだけ、ボクは素直になれるらしい。 「先に飯にしよう」 そう言って剛さんは廊下を進んで、キッチンへ向かう。 ボクは隣をくっついて歩く。 剛さんがご飯を作ってくれると思ったら、急にお腹が空いてきた。 剛さんがいれば、人並みの生活が送れる。 逆に言うと、剛さんがいないと食事をすることさえままならない。

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