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せめて 抱きしめて〜転〜 19
キッチンも冷房をつけていなかったので、むわっとした空気が不快指数を急上昇させる。
ボクは冷房をつけて、剛さんがビニール袋から食材を出すのを手伝った。
飲み物は冷蔵庫に入れて、今使うものはテーブルへ並べる。
「今日は焼きそばにした。手抜きでごめん」
「いいえ!全然!焼きそば好き」
ボクは高速で頭を振って、嬉しいと伝える。
剛さんはそんなボクを微笑みながら見て、頭を撫ぜた。
「良かった。野菜切るの手伝ってもらっていいか?」
「はい!」
剛さんの指示通りに野菜を切って、スープを作る。
そして出来上がった夕飯を一緒に食べる。
剛さんは焼きそばをおかずにご飯まで食べていた。
炭水化物に炭水化物で可笑しくって、ボクはずっと笑っていた。
剛さんがいれば笑える。
剛さんがいるから生きたいと思う。
どうしようもないくらい、好き。
食事を終えると、食器を片付けて、ボクは剛さんの腕に自分の腕を絡ませた。
「お風呂入ります?」
「ん?・・・ああ、汗だくだな」
「一緒に入っていいですか?」
「・・・ええっと」
困った顔をする剛さん。
ボクは剛さんを上目づかいで見る。
こうやって見上げられるのが弱いことを、ボクは知っていた。
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど・・・我慢できなくなるぞ」
「え?」
剛さんが顔を赤くして、そっぽを向いた。
「さっきから煽(あお)られっぱなしなんだよ・・・そんな格好してるから」
「え?」
そんな格好って・・・普通に暑いからタンクトップに短パンなだけ。
きょとんとしているボクに、剛さんは困ったように、
「暑いからってそんな格好するな・・もっとこう、布のある服着ろ」
「はあ・・・」
「まさか、その格好で外(そと)出たりしてないよな」
「コンビニくらいなら行きますよ」
剛さんが何を言いたいのかさっぱりわからなくって、ボクは小首を傾(かし)げた。
そんなボクの様子に剛さんは、少しイライラしたようで、ボクの肩を掴むと、ぐっと顔を近づけて来た。
「だからっ!・・・肌を見せるのはオレだけにしろって言ってんだ」
「え・・・あ・・・」
今度はボクが顔を赤くする番だった。
これは、これは、剛さん焼もちやいてるの?
「こんな・・・足まで出して・・・家の中だけにしろ」
「・・・はい」
剛さんが嫉妬してるのかもしれないって思ったら、もう恥ずかしくて恥ずかしくて。
ボクは顔を真っ赤にしたまま、何度も頷いた。
剛さんはそのままボクの肩を引き寄せて、顔が見えないようにボクの頭を胸の中に包み込む。
「千都星は可愛いんだから、注意しないとダメだろ。変なこと考るヤツなんていっぱいいるんだからな」
「はい」
ボクは額を剛さんの胸に押し付けて、素直に返事をする。
本当に、剛さんにだけは素直になれる。
きっと、剛さんが本当にボクを思って言ってくれているのが、わかるからだ。
漂ってくる剛さんの汗の匂いを感じた。
普段なら汗くさって、嫌な気分になるのに、剛さんだけは全然平気だった。
「風呂、入るか」
「はい」
お互いに照れた状態で、顔を赤くしたまま。
ボクは体を起こして、勇気を出して顔を上げる。
剛さんの精悍(せいかん)な顔が赤い。
耳まで赤くして、ボクに見られないように顔をそむけた。
きっとこんなことを言うのも初めてなんだろう。
可愛い。
どうしよう・・・本当に可愛い。
こんなに人を好きだと思う日が来るなんて、思わなかった。
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