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せめて 抱きしめて〜結〜 7

それなのに、眠れば夢を見る。 哀(いと)しい夢を見る。 眠るのが恐かった。 恋をする夢を見るから。 あの人に出会ってから、別れるまでの半年を、夢の中で繰り返すから。 何度も、何度も繰り返す。 胸が締め付けられる、ときめきを。 言葉を交わすだけの、幸せを。 抱きしめられる、恋しさを。 ずっと一緒にいたいという、祈りを。 何度も、何度も、繰り返し夢に見る。 そして、今も。 「・・・っ・・・違っ・・・・!!」 自分の悲鳴で目を覚ます。 明かりの点いていない部屋に、月明かりが差し込んでいて、ここが自分の部屋だと認識する。 ボクは、ゆっくりと体を起こした。 涙が溢れた。 もうとっくに枯れたと思っていた涙が、頬を伝って落ちて行く。 ベットの上で、自分の体を抱きしめる。 食事をまともに摂っていないので、ガリガリに痩せた体を抱きしめる。 涙が止まらなかった。 夢の余韻(よいん)が、消えない。 心が浮き立つ幸せから、それを失う辛さまで。 あの半年間を、繰り返し夢に見る。 一生に一度の恋を、夢に見る。 もう、嫌なのに。 もう夢なんか見たくないのに。 あの人に嫌われる夢なんか、もう見たくないのに。 瞳から溢れた涙が、次々と落ちて、布団を濡らしていく。 早く死んでしまいたかった・・・消えたかった・・・。 誰も哀しまないでしょう? 誰も泣いてくれないでしょう? 誰も・・・誰も思い出してくれないでしょう? 何でまだ生きているのか、わからなかった。 「・・・剛さん・・・剛さん・・・」 気付かない内に、ボクはあの人を呼んでいた。 少しでいい。 たまにでいい。 ボクを、思い出して欲しい。 最低なヤツだったと。 とんでもない淫乱だったと。 蔑(さげす)んでくれて構わない。 憎んでくれていい。 だから、ボクを思い出して。 少しでいい。 たまにでいい。 ボクを、思い出して欲しい。 それだけが、ボクが生きた証だから。 恋をする夢を見た。 あの人に出会ってから、別れるまでの半年を、夢の中で繰り返す。 何度も、何度も繰り返す。 胸が締め付けられる、ときめきを。 言葉を交わすだけの、幸せを。 抱きしめられる、恋しさを。 ずっと一緒にいたいという、祈りを。 何度も、何度も、繰り返し夢に見る。 恋をした夢を見た。

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