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せめて 抱きしめて〜結〜 19

しばらくすると人が近づいて来る気配がして、ベットの脇に剛さんが座った。手に持っているのはボクが唯一買っておいた、小さい片手鍋。 これしかないから、こんなので作るしかなかったんだ。 鍋にはお粥が入っているらしく、熱そうな湯気が立ち上っている。 そこにスプーンが刺さっていた。 「卵とネギ入れたけど、嫌いじゃないよな?」 ボクは無言で頷く。 両方とも好き。 きっと、覚えていて入れてくれたんだ。 「一人で食えるか?起きれるか?」 ボクは、無言で首を横に振った。 熱のせいだ・・・何だかすごく甘えたい気分なのは、熱のせいだ。 剛さんは、軽く溜め息をつくと、それでもうっすらと嬉しそうに微笑む。 「しょうがねえな・・・」 どうするのかじっと見ていると、剛さんは、スプーンにお粥を乗せて、冷まそうと一生懸命ふーって息を吹きかけている。 ある程度冷ましたところで、いきなりお粥を自分の口の中に入れてしまった。 あれ?ボクのご飯じゃなかったの? きょとんとして見ていると、鍋をベットの空いているところに置いて、ボクの上に覆い被さって来る。 顎を捕えられて、上に向かされる。 どんどん顔が近づいて来る。 え? もしかして・・・。 何となく想像した時に、剛さんの口唇がボクの口を塞いだ。 舌が誘うようにボクの口唇を突く。 ボクは、自然と口唇を開いていた。 剛さんの舌が待っていたように中に入って来る。 ぬるっとした感触の次に、どろっとしたものが口の中に入って来る。 温かくて少ししょっぱい、お粥が入って来た。 剛さんが口唇を離す。 ボクの口の中には、お粥が残された。 「ちゃんと噛めよ」 照れたように少し顔を赤くして、剛さんがぶっきらぼうに言った。 ボクは頷きながら、お粥をゆっくりと噛む。 途端に、舌に熱を感じて思わず目をきつく瞑る。 お粥の固まりの中心部分は熱いままだったらしく、舌が軽く火傷した感じがする。 それでも、剛さんが作ってくれたから、熱さを我慢して噛んで、ボクは飲み込んだ。 「熱かったか?」 目を開けると剛さんの心配そうな顔。 ボクは無言で頷いた。 「冷ましたつもりだったんだけど・・・相変わらず猫舌だな。ごめん」 ボクは頭を横に振る。 剛さんが悪いんじゃない。 ボクが猫舌なのがいけない。 剛さんは嬉しそうにボクの頭をゆっくりと撫ぜて、またお粥を冷まして口に含む。 そうやって、剛さんは全部口移しで食べさせてくれた。 本当はあんまり量は食べれないのに、剛さんがキスをしてくれるのが嬉しくて、嬉しくて。 口移しでご飯食べさせてくれるのが嬉しくて。 お腹いっぱいなのに、何も言わないでいた。 お粥を食べ終わると、剛さんは次に買って来た風邪薬を飲ませてくれた。 これも甘えて口移して飲ませてもらう。 本当は風邪が移るからダメなんだろうけど、ごめんなさい。 すごく嬉しくて、すごく甘えたくて、剛さんの優しさに付け込んでる。 最低だね。 ごめんなさい。

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