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せめて 抱きしめて〜結〜 20
「もう・・・大丈夫だから・・・げほっ!・・・帰って・・」
しわがれた声で、途切れ途切れに言った。
本当は傍にいて欲しい。
ずっと、一緒にいたい。
でも、もうここまでにしておかないと。
もう充分です。
ボクにはもったいないです。
剛さんは、溜め息をつきながら、ボクの肩まで布団を掛け直す。
「嫌だ。千都星の傍にいるって、決めたんだ。オレがいないと、人並みの生活もできないじゃないか。こんなに痩せて・・・ろくに飯食ってないだろ」
ボクは頭を横に振った。
「帰って・・・一緒に・・・いたくない・・・」
「嘘つき。ずっと傍にいて欲しいって、目が言ってるぞ」
ボクは反射的に目を瞑って、ひたすら頭を振り続けた。
涙が出てきそうになって、ボクは瞳をきつく瞑った。
剛さんを見ないように、見られないように、ボクは剛さんとは反対方向に頭を傾けた。
そんなボクの頭を剛さんはゆっくりと、慈(いつく)しむように撫ぜてくれる。
「千都星・・・オレ、警察学校卒業して、4月から警察署勤務なんだ。ちゃんと千都星を養える。だから、一緒に暮らそう」
ああ・・・夢を叶えたんだ、剛さんは。
ずっと、警察官になるって、お父さんとの夢だって言ってたもんね。
良かった。
だから、真っ直ぐ進んで。
貴方は、自分の夢に向かって、そのまま真っ直ぐ進んで行って。
そこに、ボクは必要ない。
邪魔にしかならない。
足を引っ張りたくない。
ボクは剛さんを見ないように我慢しながら、もぞもぞと寝返りを打って、剛さんに背中を向けてうつ伏せに寝た。
「ダメです・・・キャリアなんでしょ・・・こんなウリなんか・・けほ・・・してるのが傍にいたら・・出世でき・・・ごほっ・・・できないです・・・くしゃんっ!」
剛さんが上から覆い被さるように、ボクの体を布団越しに抱き締める。
「・・・出世しても千都星が隣にいない人生より、街のお巡りさんでも千都星を抱き締められる人生のほうが、よっぽど幸せだ」
やめて。
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