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せめて 抱きしめて〜結〜 21
そんなこと言わないで。
ボクを抱き締めないで。
ボクは弱いから。
今にも崩れそうに弱いから。
そんなこと言われたら、こんな風に抱き締められたら、すり寄ってしまう。
やめて。
やめて。
やめて。
やめて。
やめて。
やめて。
・・・離さないで。
ボクは掛け布団をずるずると引っぱり上げる。
とうとう溢れ出した涙を、剛さんに見られたくなかった。
冷たい氷枕に顔を押し付ける。
涙がタオルに染み込んでいく。
「好きだ。千都星が大好きだ」
「ふっ・・・うう〜〜〜〜っ・・・ふぇ・・」
止められなかった。
喉から嗚咽(おえつ)が漏れるのを、止められなかった。
剛さんは、ボクを抱き締めたまま、耳元で何度も囁いた。
「守るから。これからはオレが千都星を守る。ずっとずっと傍にいる。千都星が好きだ。好きだ」
「うえっ・・・ごほっげほっ・・・ふえっううっく・・・」
ずるい。
剛さんはずるい。
そんな言葉で、こんな簡単に、ボクの覚悟を塗り替えてしまう。
長く生きるつもりはなかった。
大学を卒業をしたら死ぬつもりだった。
ウリで貯めたお金を、今までの養育費を返して。
あの人達に叩き付けて、目の前で死んでやるつもりだった。
それでボクを生んだ過去を、帳消しにするつもりだった。
最初から、生まれなかったことに、するつもりだった。
生きたくなかった。
誰も傍にいてくれない。
誰も愛してくれない。
誰も必要としてくれない。
誰も存在を認めてくれない。
そんなの、死んでるのと同じだから。
だから、ちゃんと死ぬつもりだったのに。
今は、今は・・・。
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