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第11話

「買う……?ああそうか……」 天城は片手で頭を掻いている。その彼に向かって、銀嶺は静かに続けた。 「働かず、そうやって施しを受けることを覚えてしまうと、あなたが下船された後、その子はここで生き延びることができなくなってしまいます――」 「ああ……ねえ……いや……そうできりゃいいんだろうけど……俺、人造兵なんだよ。だから買うのは無理で」 困った風に天城は答えた。それを聞くと、銀嶺はわずかに目を見開き、ああ、という表情になった。 「そうでしたか……それは……余計なことを言いましたね、申し訳ありません」 「いや……」 一等船室の方向へ歩き去っていく銀嶺の後ろ姿をじっと見送りながら、ノアは呟いた。 「天城さん……僕、これ……受け取らないことにします……」 天城が、両手で包みを差し出したノアを見下ろす。 「ごめんなさい……本当は……本当はすごく欲しいんだけど……でも僕、もう少し生きていたいから……ほんとにごめんなさい」 「わかってる。謝らなくていいよ」 微笑みながら包みを受け取り天城は答えた。 「頑張るんだな?」 「はい」 ノアは天城の顔をしっかりと見返して頷いた。 展望室を出て天城と別れ、ノアは三等にあるバーに入ってみた。そこから客らしい男と出てくる仲間を見かけたためだが、どうやら正しい判断だったらしく、一杯ひっかけて気前がよくなった客をつかまえる事が出来た。客の部屋で相手するうち、彼はほろ酔いのまま気持ち良さそうに寝入ってしまい、乱暴な扱いも受けずにすんだ。ほっとしながらノアは服を着、そっと部屋を出た。 これでなんとか明日はまともな食事にありつける。ノアは思いながら暗い自室へ戻った。 部屋に帰ると、カスパが起きていた。 「よお、ノア。今日はどうだった?」 「半分上手くいったけど……半分失敗した」 「ええ?何それ?」 銀嶺に偶然会った事を話すと、カスパは目を丸くした。 「へえ、驚いた。俺まだ一回も出くわしたことないよ。で、どうだった?すぐ側で見たんだろ?」 「うん……すごく、綺麗だった」 「そうだろうなあ……高級品だもんなあ……」 感心しているカスパにさらに、警備員にされてしまった事を話すと、呆れた顔をされた。 「それだめじゃん……次も要求されちまうかもよ?」 「だよね……でも、とりあえず今日のお客さん、チップいっぱいくれたから……しばらくはこれで通してもらう……あ、そうだ」 思い出してノアは、疑問に思っていたことを尋ねた。 「カスパ、人造兵ってなに?ヒトとは違うの?」 「ええと……人造兵は、俺らみたく、工場で作られてる兵隊のことだよ。そう言えばこの船にも何人か乗ってたな。戦闘用に強化されてるから、普通のヒトよりも力が強かったり、なんか他の能力がつけてあったりするらしいよ」 「そうなんだ……」 ノアは、天城が自分のことを、同類、と言っていたのを思い出した。だからだったのか……納得しながらノアはさらに聞いてみた。 「人造兵のひとたちって……僕らのこと買わないの?」 カスパは答えた。 「うん、買わないというか、買えないんだよ。ええと、確か、あの兵たちは……コントロールされてるんだ、性欲が」 「コントロール?」 「そ。だから好き勝手にはできないって聞いたような……?よく知らないけど。理由はともかく、人造兵は客にならないってことはハッキリしてるからさ、俺達には関係ないよ。さーて、もう寝ようぜ」 「そうか……そうだよね、関係ない……」 呟きながらノアも寝床に潜り込んだ。天城の……大きな掌の温もりを思い出す。強いのに――なんであんなに優しいんだろう。なんで僕なんかに……親切にしてくれたんだろう…… でも、関係ない。ノアは想いを振り切った。そうだ、あの人はお客にはならない。だから僕には……関係ないんだ……

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