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第12話
からかってくる警備員をなんとか小銭でやりすごし、翌日もノアは三等へ上がった。すぐにバーへ行くつもりが、なぜかどうしてもまた展望室の、あの果てしなく広がる宇宙空間の眺めを見てみたくなり、ちょっとだけ、と自分に言い聞かせながらそこへ寄った。
すると、昨日と同じく展望室に銀嶺がいた。びっくりして入り口で思わず立ち止まったノアに気づき、銀嶺はこちらを振り返った。その優美な仕種につい目が吸い寄せられる。
彼の姿をじっと見つめてしまっているのに気がついて、ノアは慌てて詫びた。
「ご、ごめんなさい、邪魔しちゃって」
銀嶺が美しい顔に微笑を浮かべて答える。
「……良かった。君が来てくれないかと思って待っていたんだ」
「えっ!?」
意外な言葉にノアは声を上げた。銀嶺が自分を?なぜ?
「……随分冷たいと思っただろう?私のことを」
「え……」
思い当たってノアは慌てて首を横に振った。
「そんな……そんなことありません。おかげで大事なことに気がついたし」
施されることを覚えてはいけない、銀嶺にそう言われてノアは、あらためて自分がなんのために存在するのかをはっきりと理解したのだった。人に買われるために作られた自分が、買われる事を放棄してしまうのは、存在を――生きるのをあきらめるという事と同じだ。
「――本当は、もうそれでいいかとも思ったんです。天城さんに食べ物をもらってその後は、もう死んじゃってもいいかなって。でも、天城さんが僕に食べ物をくれようとしたのは、僕を生かそうとしてくれたからで……ええと、だから……死んじゃったら駄目なのかもしれない、って、そう思って……」
「では、食べ物はもらわなかったんだね?」
「はい、そう……」
答えたノアを、銀嶺は微笑みながら見ている。
「君は……昔の私にそっくりだ」
「ええっ!?」
ノアは大声を上げてしまった。この美しい銀嶺と自分のどこが似ていたというのだろう。
「今日は私が君を買うよ。お金を払うのは私の飼い主だが」
銀嶺は、ますます驚く事を言いながら、ノアの肩に手を添えて一等船室の方へと導いた。
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