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第14話
天城は元衛生兵だ。
通常の歩兵よりも大型で頑丈だし、力も強く作られているが、それは本来、戦闘のためではなく負傷した兵を救助、搬送するためのものだった。
だが専門家が、人造兵の場合は、負傷した個体を回収して治療するより、破損していない部分だけをリサイクル用に集めてあとは廃棄処分してしまう方が、コストが低いという調査結果を出した。
その結果を受けて、軍の上層部は衛生兵は必要なしと判断し、製造も中止されたのだが、天城はその中止決定がなされる直前既に完成していた。衛生兵廃止と決まって、天城に組み込まれていたデータは衛生兵用から通常歩兵用へと上書きされたのだが、人造兵は生物としての特徴も多くの部分で持つため機械のように単純にはいかず、データが完全には塗り替えられなかった。
天城は今でも、半端に残る古いデータに基づいて行動してしまうことがしばしばある。他の歩兵に比べ闘争心が低いし、弱っている個体に出会うと衛生兵用データの反応が強く出て、応戦よりも救助活動の方を優先してしまったりする。部隊の兵士達は、天城が衛生兵のなりそこないだと知っているので一応彼の特質に対する理解はあるが、同調まではできないらしく、とりあえず仲間内では変わり者で済まされている。
今回、天城の班が本隊から離れてしまったのも、その変わり者の特質のためだった。
戦地になっている星で、航路を誤って戦闘地域に入り込んでしまった輸送機がいた。武器の装備ははっきりとは認められなかったが、敵側から飛んで来た機体だったため、いつ撃墜されてもおかしくない状況だった。だが交信で、輸送機に乗っているのは非戦闘員の避難民ばかりだということがわかった。それを知った天城は、上官にその輸送機を安全なところまで誘導する許可を願い出た。敵側からの避難民ということで、上官は彼らの安全にあまり関心が無くいい顔をしなかった。だが天城が、音羽に入れ知恵された避難民保護に関する取り決めを持ち出してしつこく食い下がったため、結局承知した。
天城達はヘリで輸送機を護衛し誘導した。戦闘地域を抜けるまで、という条件だったので、そこまで行ったらすぐ引き返し、天城たちは本隊に合流しなくてはならなかった。だが戦闘地域を抜けて間もない地点でその輸送機はエンジントラブルを起こしてしまった。操縦士は不時着を試みなんとか地上に降りたのだが、機体はかなり破損した。
天城達の戦闘地域外での活動許可は下りていない。救助要請だけを出し、あとは放っておかねばならなかった。しかし天城にはそれができなかった。彼は独断で避難民達の救助に向かい、一緒にいた相模と音羽も巻き込まれて天城を手伝う羽目になった。
輸送機に乗せられていた避難民は幼い子供が殆どで手が足りず、結局天城たちは乞われて救助に最後まで参加してしまった。応急手当をしながら、重傷者を医療設備の整った安全な星まで搬送するのにも付き合ったため、最終的には随分と前線からも本隊からも離れてしまった――
これが、現在天城たちが星間連絡船に乗っている理由なのだった。
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