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第17話
仕事に出ようとしていたノアは、狭い通路で天城と鉢合わせた。
「よおノア」
と言ったきり天城は、ノアの姿をじっと見つめている。
「あの……どうかしたんですか?」
訊ねたノアに、天城は嬉しそうに
「随分顔色良くなった」
と言った。
「そうかな……あっ」
ノアは気づいて声を上げた。
「ここ暫く、毎日ちゃんと食事もらえてるから、ふらふらしないし、それでかも」
天城が微笑む。
「そっか……頑張ってるんだな」
「はい……」
ふいに天城が自分の前に近づいてかがみこんだので、ノアはどきりとした。
「え?天城さん?なに?」
「ちっと重さ量らせろ」
「えっ?」
驚いたノアをすくい上げるようにして両腕で持ち上げる。天城はさらに、腕の中に抱えたノアの身体を、ぽんぽんと軽くゆすって弾ませるようにした。
「うーん確かに……この間よりは重くなったかもしれないけど……まだまだだなあ、まだ軽い」
「天城さんが……力ありすぎなんだと思うけど」
ノアは呆れて言った。
「いいから、も少し太れ」
「努力します……あのう」
「何?」
天城は濃い茶色の瞳で間近からノアを見た。なぜか恥ずかしくなり、ノアはつい視線を逸らした。
「仲間に聞いたんだけど……人造兵のひとたちは、性欲をコントロールされてるって……。それ、どういうこと?」
「あ?ああ……」
天城は、通路へ視線を向けた。ノアを抱えたままゆっくり歩き出す。
「俺ら別に、生殖能力って必要ないんだけど、人造兵からその機能を完全になくしちまうと、戦闘意欲もなくなるんだと。でも、だからっつって、残しといてもまずいんだって」
「どうして?」
「さあ……?その理由は聞かなかった。ともかくそれで、偉い人たちが考えたらしい、薬で調節すりゃいい、ってな」
「薬で……」
「うん。俺達、戦績上げると報奨金もらえるんだけど、希望すれば金の代わりに薬をもらえるんだ。それを使うと一応、ネコ買ったりもできるらしいよ?俺はまだそこまでの成果出してないからもらった事ないけど、ネコ買ったことある奴らは、いいって言うな……」
「ふうん……」
天城は通路の端まで来ると、そこでそっと、抱えていたノアを下ろした。
「俺もいつか、うんと手柄立てたら……薬もらってノアを買うわ」
「ほんと?」
ノアは天城を見上げた。
「ほんとに買ってくれる?」
「うん」
「……約束してくれる?」
「うん、約束するよ」
天城は微笑んでそう答えたが、ノアは気づいていた――彼はネコを買うという行為がどういう物なのか、本当には理解できていない。そして、前線へ赴く天城が、再びこの船に乗ることは無い――それは果たされる事のない、儚い約束だった――
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