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第22話

ノアが幽霊らしいものを目撃してから暫くして、三等と四等の客の間にも幽霊の噂が広がりだした。 行商人の男も見たと言い、店の前を通りかかったお客とノアに、ある星で仕入れたという魔よけ札を売りこんできたりした。 やがて――連絡線の往路が終わりに近づいてきた――人々が入港後のことについて色々と話題にし始め、日々ただ生きるのに夢中だったノアもその事に気がつかない訳にいかなかった。 乗ってきた乗客たちは皆、到着する星で下船する。ノア達はそこで乗り込む新たな客達と、最初に出発した星へと戻る。天城たち三人の人造兵は、そこからまた別の宇宙船に乗り換え、戦地へ向かわねばならない―― 数時間後の宙港到着を知らせるアナウンスが流れる中、ノアは兵士達の船室を訪れた。いつものようにドアを叩いて開けると、兵たちは荷物の整理を始めていた。 邪魔にならないよう隅の寝台へ上がり、ノアは彼らを眺めた――音羽は几帳面に、機器類のコードを束ねている――相模は私物を放り込んだ雑嚢の口が閉まらず苦労している――そして天城は―― こちらに背を向けて荷物を纏めている天城の姿を見ているうち、彼とはこれでお別れなのだ、という想いがこみ上げて来て、ノアは俯いて小さく鼻をすすり上げた。最初から、この日が来るのはわかっていたのに――やっぱり辛いのは我慢できない。 音羽がノアの様子に気づいて振り返った――諜報活動も行うという彼は、聴力が高いのだった。 「ノア――具合が悪いのか?」 音羽がそう訊ねたと同時に天城がノアのところへ飛んできた。 「大丈夫かノア!?」 天城の顔を見上げてノアは笑顔を作った。 「大丈夫――病気じゃないよ。天城さん」 「うん?」 「また――重さ、量ってくれる?」 天城は微笑んで頷くと、寝台に腰掛けているノアの身体の下に腕を差し入れて抱え上げた。間近に来た天城の首を抱きしめ、ノアは彼の耳元に自分の顔を押し付けた。 「うん――少しは、重くなったかな……」 天城が小さく呟く。 「良かった」 ノアは言って顔を離し、天城を見つめた。この目に刻み付けるようにして――覚えておこう、この人の――濃い茶色の瞳、少しクセのある髪。そして逞しい腕と優しい声――もう二度と――見られないから。 こらえきれずノアが泣き出しそうになった時――奇妙なサイレン音が船内に鳴り響いた。

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