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第24話
「聞いたか?放送」
「ああ」
部屋に戻った天城が訊ねると、音羽と相模は頷いた。二人とも荷造りの手は止めている。
「ええと、保健法の五十……なんだったっけ、音羽、知ってる?それ」
「保健法58条は、罹患者の隔離に関する取り決めだ」
「隔離……やっぱ、そうか……」
天城がため息をつく。
「きっとこのままどこかの医療施設に連れて行かれるんだよな?俺ら。そしたら予定通り部隊に合流するのは無理そうだなあ。ツイてねえ、また罰金だきっと」
そう言った相模の顔を、音羽は妙にきちんと見返した。
「あ?なんだよ?」
「そんな穏やかなことで済めばいいが……58条は、未だ治療法が確立されていない疾病への対策をとる場合に適用されるものだ」
「え?それって……まさか……」
相模が焦った顔をした。
「そう。船内で出たという疫病は、恐らく新型の物なんだろう。感染者がいるこの船は、もうどこの宙港にも受け入れてもらえないんじゃないだろうか?」
「ないだろうか?じゃないよ!なんでそう落ち着いていられるんだお前は!」
相模と天城が同時に叫んだ。
ノアには何が起こっているのかよく理解できていなかったのだが、ともかく、この船は宙港に入れず、乗客は船から降りられない、ということはわかった――いったい、これからどうなるのだろう?
突然カスパ達のことを思い出した。きっとみんな――怖い思いをしているに違いない。
「天城さん――僕、ちょっと部屋に行ってくる」
「あ?そうか、仲間が心配か――俺も行くよ」
天城は言って、ノアと一緒に来てくれた。
部屋へ戻ると、なぜかそこは空っぽだった。
「なんで……?みんな――いない――」
部屋を見回しながらノアは唖然として呟いた。今日は入港日なので、仕事へ出ているはずはない。ノアが天城たちの部屋へ行く前は、皆ここにいたはずなのだが――
「おかしいな?しょうがない、ノア、俺達の部屋に居よう」
天城がいたわる様に言った。
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