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第31話

入港日が近づいてくる――まだノアは完治しておらず、医務室のベッドで寝たり起きたりしていた。 数えてみたら到着まであと二日――二日しかない。ノアはたまらない気持ちになった。 天城さんと離れて、生きていけるのだろうか?そんな風にノアが思った時、部屋で何か片づけ物をしていた天城が突然言った。 「ノア。この先、何があっても死ぬんじゃないぞ――この戦争が終わるまで」 ノアは天城を見た。この距離だとまだ霞んでしまうので、彼の表情ははっきりとはわからなかった。 「俺も死なない。俺も死なないからお前も頑張れ」 声が出せないノアは懸命に頷いた。 天城が側に来る。 「俺らみたいな人造兵にとっては、この戦いに勝つため命を捧げるのが一番名誉な事で……ヘタに破損して、リサイクル品なんかで補修されるのはかっこ悪い、真っ平ごめんと思ってたんだ。でも――」 天城は寝台に半身を起こしているノアの肩を抱き、自分の額をノアの額にぎゅっと押し付けて言った。 「もうそんな風に思ってない。中古の腕つがれても脚つがれてもいいから、戦争が終わるまで生き残って、ノアのとこに戻って来たい――いや、必ず、戻ってくる」 ノアの目に涙が溢れた。思わず両腕を伸ばして天城に縋りつき――口付けた。天城は戸惑ったようだったが、ノアがそっと彼の唇を吸うと、同じように吸い返してくれた。 初めてに違いない天城の接吻はひどくぎこちなかった――しかしノアにとっては今までで一番――深く、激しい口付けだった。 その晩、隣の椅子に腰掛けている天城に向かい、寝台に横たわったノアは、身体をマットの端へ寄せ自分の側らをぽんぽんと叩いて見せた。 「言ったろ、横にならなくっても、俺はここで平気だよ」 戦地で過ごす人造兵は、完全に神経を休めて眠るという事が無い。緊急時に素早く対応するため、熟睡しないし、それでも体力が回復するように作られている。ノアの看病中ずっと、天城は椅子に腰掛け休むだけなのだが、それで充分だという。 だがノアは首を横に振り、今度は天城に両腕を差し伸べた。自分に気を遣ってではなく、ノアがそうして欲しいのだ、と天城は悟ったようで、椅子から立ち上がって寝台へ近づいた。 ノアに被さりながら囁く。 「――つぶしちまっても知らねえぞ?」 ノアは天城に向かって微笑んだ。 医務室の窮屈な寝台で、二人はしっかりと抱き合って目を閉じた。 いよいよ入港日だ――船内にアナウンスが流れる――ノアは悲しみをこらえ寝台から起き上がった。 天城さんは、きっと約束を守ってくれる。戦争が終われば、きっと自分に会いに戻って来てくれる。自分は彼を信じている。だから泣かずに彼を――待っていよう。 まだ視界がはっきりしない――熱があるのか寒く感じ、寝台のシーツを引っ張り寄せた。それを肩に巻きつけ、ノアは慎重に歩き出した。 天城は自分の荷物を取りに兵達の船室へ行っている――下船口まで見送りに行こう。 通路の壁を伝ってゆっくり歩いていると、向かいから兵士たちが荷物を下げて歩いて来た。 「よお、ノア」 相模が言う。 「こないだのお前の活躍、マジでメダルもんだったよ――じゃあ、元気でな」 「相模さ――」 ノアは相模を見上げ、話そうとしたがそこで咳き込んだ。 「おっとっと、無理すんな――ん?」 おかしな表情をした相模を音羽が見た。 「どうした?」 「いや、今――ん、なんでもねえ」 「相模、悪い、ちょっと俺の荷物持ってくれるか?」 天城は頼み、壁に片手をついて身体を支えながら咳き込んでいるノアを抱え上げた。 「船長には頼んであるから――ちゃんと休んで身体治せよ?」 ノアは頷いた。 ノアを抱き、天城は歩き出した――下船口が近づいてくる――ノアの耳元でそっと囁く。 「約束、必ず守るから」 ノアはもう一度頷き、天城の顔に額をこすりつけた。 船は無事に入港した。他の乗客たちも皆下船口に集まってきて待っている。 ゲートが重い音を立ててゆっくりと下り始め、宙港と船を繋ぐ桟橋が見えてきた――と、そこに――武装した兵達が幾人も待ち構えている――? 「えっ?」 ノアを抱えている天城が小さく声を上げた。 下ろされたゲートと桟橋が完全に繋がると、先頭にいる兵士が乗客たちに小銃を向け、大声で叫んだ。 「この星は革命軍が制圧した!乗客の方々は、今後我々の指示に従って頂く!抵抗する者は直ちに射殺する!」

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