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第32話
武装した革命軍の兵士に取り囲まれ、見張られながら連絡船の乗客たちは宙港へ降り立った。
兵士たちが乗船者のデータを確認しつつ、乗客を分割しはじめた――一般人と、政府関係者などの要人とを分けているようだ。
天城たち政府軍の人造兵が乗客の中にいるのに気づくと、兵士たちの様子が変わった。
彼らは油断なく銃を構えながら三人に近づいて取り囲み、荷物や武器を全て取り上げた。
「貴様達は捕虜収容所へ連行する」
責任者らしい兵士が申し渡した。
「やれやれ……だっせーの……こんな形で捕まるとは思わなかったよ……」
両手を上げさせられた相模が、情けない表情で肩をすくめて呟いた。
ノアを抱えたままだった天城が、その兵士に一歩近づいた。忽ち近くの兵達が天城を取り巻いて小銃を突きつける。
「止してくれよ……こいつ抱いてるんだぞ、怖がらせないでくれ……」
天城は静かに言った。
「殺虫ガスにやられて体調を崩してるんだ――世話を頼みたい」
シーツにくるまったままのノアを兵士に差し出す。ノアは顔を引き攣らせ天城に縋りついた。
「民間人は拘束しないはずだよな?バイオペットも同じ扱いか?」
兵士は頷き、答えた。
「我々は、人造生命体と人とを区別しない」
「そうか、良かった。丁重に扱うと約束してくれ……こいつのお陰で、船の客が誰も死なずに済んだんだ――」
しがみつくノアの腕を天城はそっと外そうとする。
「放してくれ、ノア――心配しないでいい。俺は行かなきゃ」
「放しなさい。我々も乱暴なことはしたくないんだ」
兵士に言われ仕方なくノアは手を放した。ノアを兵士に託した天城は、待ち構えていた兵達に囲まれ、銃を突きつけられてそのまま連れて行かれてしまう――遠くがまだ見えないノアの目に三人の人造兵の姿はたちまち霞んだ。ノアは出ない声を振り絞って必死に叫んだ。
「天城さん――!お願いだ、その人たちを殺さないで――!」
ノアはそのまま車に乗せられ、病院へと運ばれた。
意外なことに革命軍の兵士は皆ノアに優しく同情的で、ノアが入れられた病室に現れるスタッフも同じくとても親切だった。病室は清潔でベッドも柔らかく、出される食事も美味しくて、敵軍に捕まったのだとばかり思いこんでいたノアを混乱させた。
体調が良くなり声が出るようになると、革命軍が作った臨時政府組織の役人だと言う人が病室のノアを訪れ色々な質問をした。今までどんな扱いを受けていたかとか、どこにいたかとかを訊ね、ノアの答えを頷きながら聞いていた。
質問し終わると、彼は
「革命軍は、人造生命体を奴隷のように扱うことを禁じている。バイオペットは、もう今までみたいに、飼い主の言うことを聞いたり、こきつかわれたりしないでいいんだ。君達は好きなところに行けるし、好きなことが出来るんだよ」
と言った。
何か質問はないかと訊かれ、ノアはずっと気になっていたカスパ達のことを尋ねた。すると、彼らはバイオペット用に用意された保護施設で元気に暮らしている、と教えてくれた。
「保護施設にいる君の友人達は、今はそこで、自立するため勉強したり、職業訓練を受けたりしている。親切な人に引き取られて家族ができた仲間もいる。君もいつか、きっとそうなるよ」
そうしてその人は小さな電話を取り出し、親切なことに施設に連絡してカスパと話をさせてくれた。銀嶺もそこに一緒にいると言う。
元気そうなカスパの声を聞き、安心してノアは電話を返そうとした。思いついて彼に訊ねる。
「一緒の船に乗ってた人造兵の人と……話させてもらえませんか?」
彼は気の毒げな表情になって首を横に振った。
「すまないが、それは駄目だ。収容所に入れられている相手に連絡を取ることは出来ないよ」
「どうしてですか?」
「同じ人造生命体でも、彼らは君達と違い、政府軍に対する忠誠心を行動基盤に植えつけられているから新しい生活に適応するのは無理なんだ。戦闘用に強化されているし、どんな行動を取るかわからないので厳重に監視しておかねばならない」
「じゃあ、ずっと閉じ込めておくんですか?」
「責任者がそのうち決定を下すと思うが、おそらく解体処分になるだろう。政府軍の人造兵はとても危険だからね」
ノアは彼の顔をじっとみつめて聞いていた。そんなはずはない。天城さんたちが危険だなんて、大間違いだ。革命軍の人たちは、あの三人の事をなんにも知らないんだ。
だがノアは、彼には何も言わなかった。
数日が経過した。ノアの症状はすっかり良くなり、病院のスタッフから、次の検査で異常がなければここを出てカスパ達のいる保護施設に移れると聞かされた。
その晩、消灯時間がすぎて病院内が静まり返った時――ノアはそっと、病室を抜け出した。
行き先は決まっている。この星の、革命軍の中で、一番偉い人物の所だ――
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