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第33話
ノアは病院のスタッフや役人の男性から慎重に必要な情報を聞きだしていた。
収容所にいる捕虜の扱いを誰が決めているのか、そしてその人物がどこに住んでいるのか、今ではしっかりと把握している。
ただのバイオペットの自分が、要人に会いたいなどと頼んでも、相手にしてもらえないのはわかっていた。だから――ノアは取る方法を決めていた。
ある晩――消灯時間になるのを待って病院を抜け出したノアは、行きたい方向へ走っていくトラックを見つけ、荷台に飛びついて這い上がった。
じっと隠れ、信号でトラックが止まった時素早く飛び降り、病院で見せてもらった案内地図で確かめておいた場所へと向かった。
綺麗に整えられた芝生の奥に、立派なレンガ造りの家が建っている。
以前は政府の高官が住んでいた贅沢な家だが、高官はとっくによその星へ逃げ出していたためしばらく空き家になっていた。現在は革命軍が徴収し、岩崎と言う名の責任者の住まいとして使われている。ノアはそんないきさつは知らなかった――目的はただ、そこへ上手く侵入することだ。
家の門の所には警備員がいる。ノアはそこを避けて塀をよじ登り、庭へと忍び込んだ。
家の中へ入り込める方法を探す。あの宇宙船のような通気ダクトがあればいい。多少狭くてもノアになら入れる。
壁に通気孔らしい物はあったのだが、残念なことに頑丈で外せない鉄格子が嵌められていた。さらに探す。
見上げると、屋根に煙突が突き出ている。ノアは銀嶺に見せてもらった本の中に、赤い服を着た太ったおじいさんがそこから家に入って行く絵があったのを思い出した。
近くの木によじ登って、張り出した枝から屋根に移る。
かなりの高さだが、夢中だったノアは恐ろしいとは感じなかった。滑り落ちないよう慎重に急勾配の屋根を伝い、煙突に近づく。覆いに手をかけて煙突を覗きこむと、レンガ部分全体が筒になっているわけではなく、その中に鉄管のような物が通っている、ということがわかった。鉄管は思ったよりかなり細かったが、ノアは構わず足からそこへ入った。
中は真っ暗で、手足が滑る。下手に動くと筒にこびりついた煤が舞い上がって息苦しくなる。ノアは必死に煙突内を伝い下り、長い時間をかけて下まで辿り着いた。
降りたところに下がっていた鎖のカーテンのような物を押し開き、ノアは家の中へ入り込んだ。
夜は既に深まって皆寝静まっているらしく、部屋の灯りは消されていた。かなりの暗さだったがネコは夜目が利く。ノアにはこの方が都合が良かった。
煤 で薄汚れた姿のままノアは廊下をこっそり歩き、まず調理場を探した――包丁が必要だったからだ。
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