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第3話

まさか最後の最後に抜き打ち小テストがあるなんて思ってもいなかった。 浮かれていた優吾に大ダメージを与えた小テストの結果なんて見なくても分かっている。 「酷すぎ。なんで予告しないんだよちくしょー」 「予告したら抜き打ちじゃないだろ」 「そうなんだけどさー!知ってれば少しくらい勉強したじゃん?」 「普段からしろ」 ぐさり、と純の言葉が突き刺さる。 全くもってその通りなので言い返すことができなかった。 きっと予告されたところで点数に大差ないのは分かってはいるのだけれど、それでももう少し勉強しておけば、と悔やんでも悔やみきれない。 「丁度いい、小テストの復習でもしようか」 「わー、そりゃいいアイディアで」 帰路を歩きながら優吾は苦笑した。 てっきり勉強は口実なのだと思っていたけれど、しっかり勉強はするようだ。 もしかしてあんなことやそんなこと、と色々な妄想をして午後を過ごしていたのだけれど、少しも叶わないかもしれない。 残念ではあるけれど、それでも純と二人きりという事実は変わりないので喜ばしいことなのだけれど。 家に近付くにつれ、人通りも少なくなってきた。 ちらり、と純を見る。 純はいつもよりかは緊張しているような面持ちだった。 好きな人を自分の家に呼ぶのだからそうなる気持ちも分かる。 逆の立場なら優吾の心臓は高鳴りすぎておかしくなっているところだろう。 「ユウ?」 「……」 優吾はそっと純の手を握った。 これだけで心臓がはちきれそうだ。 純の手は温かく、大きかった。 体温が伝わってきて、緊張が一気に増す。 ちらり、と純を見て、優吾は笑みを零した。 「なんだか恋人同士だな」 「……ッ!」 かあ、っと純の顔が真っ赤になった。 だけど手を離すことはしないので、もしかしたら純も同じことを思っているのかもしれない。 「恋人つなぎってさー、」 指の間に指をいれ、交互にさせて握った。 「こうするんだぜ。知ってた?」 恋人つなぎに繋ぎなおされた手と手は温かな温もりをお互いに伝えあった。 「……知らなかった」 「マジで?お前それでも高校生かよ」 確かに、純は恋愛に対して少々疎い所がある。 告白されたことは何度かあるみたいだけれど、付き合ったことは一度だってないようだ。 優吾は告白すらされたことないので勿体ないなあと思いつつも、断った、と言う純の言葉にいつも安堵する自分がいた。 好きな人が誰かにとられてしまうなんて、想像しただけでも胸が痛い。 その相手が女子ならば、もう敵うはずもないではないか。 「恋の一つもするもんだぜ?」 「恋なら、今してる」 ドキ、とした。 二人の間を沈黙が流れる。 嬉しいことを言ってくれるから、何て返せばいいか分からなかった。 このドキドキが握った手を通じて伝わりませんように、と願うばかりだ。 「やり方は分からないが……」 家に着き、ドアを開けて玄関から入った。 そのまま玄関に立ち尽くしたまま、純は優吾をじっと見る。 「恋をしたら、次はどうすればいいと思う?」 「どうって、」 残念ながら交際経験ゼロの優吾に問われても分からないのが現実だった。 したいことをすればいいのだろうが、手をつないだ次は何をすればいいのだろう。 何をさせてくれるのだろう。その問いの答え、むしろこちらが知りたいくらいだ。 そもそも、まだ優吾と純は付き合っているわけでもないのでまずはそこからだろうけれど。 (でも……) 今、純が優吾に惚れているのは惚れ薬の効果のためであって、現実は違うかもしれない。 純の本心を無視して事を進めていいのだろうか、という迷いがある。 きっとここで優吾が告白すれば純はオーケーをするだろう。 当然だ、純は今、優吾に惚れているのだから断る理由がどこにもない。

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