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第4話
「ここで立ち話も、な。部屋へ行こうか」
「おう、そうだな」
靴を脱ぎ、二階の純の部屋へ向かった。
靴の数からして、家には二人以外いないようだ。
何度も来ている純の部屋も、今日は落ち着かなかった。
端にシングルベッドが一つあり、部屋の中央にはコタツテーブルが置いてある。
純はいつもこのテーブルで勉強をしているらしい。
冬はコタツ化するので冬は勉強するには優吾には不向きだ。
今は夏なので問題はないのだけれど。
「さっきの続きだけど、」
向かい合ってテーブルに座り、優吾は言葉を続けた。
「純は、どうしたい?」
我ながら卑怯な質問だとは思う。
けど、純の気持ちを大切にしたい、という思いはある。無理矢理そういう展開にもっていくのは薬を盛った本人としては気が引けるからだ。
「……オレは、」
純は口籠り、だけど、視線は優吾を向いている。
「お前と一緒にいたい」
「一緒に?」
純は誤魔化すようにカバンから数学の教科書を取り出し、テーブルに並べ始めた。
「ああ、勉強を口実にしても構わないから、お前と一緒にいたいと思う」
だから勉強しましょう、とでも言いたげな様子だ。
今は勉強に身が入りそうにないので少々勘弁してもらいたい。
優吾は席を移動し、純の真横に座った。
そっと純の手をとり、握る。
純の体温が伝わってくるかのようだった。
「純、あのさ、」
緊張のあまり純の顔を見ることができなくて、俯いたまま優吾は尋ねる。
「オレ、お前のその言葉、本気にしちゃっていいの?」
否、それは惚れ薬のせいだから駄目に決まっている。
そんなこと分かっているのに、純に言われる一言一言が嬉しくて、舞い上がってしまって。
冷静にならなければならないと理性では分かっているのだけれど、感情がそれを許してくれない。
純が言っているのだからいいじゃないか、と悪魔が先程から囁いてきて、その誘惑に負けそうになる。
「……いいよ」
そんな葛藤を抱く優吾の心境なんて知る由もなく、純は優吾の手に自分の手をそっと添えた。
ぬくもりが伝わってきて、心臓の鼓動が早まる。
「好き、だから」
指と指を絡め、だけど純も俯いて。
二人とも俯いたまま、時計の針がカチ、カチ、と無音の部屋に音を立てている。
「だから、一緒にいたい」
「……オレも、純のこと、ずっと想ってた」
我慢できるはずがなかった。
こんなにも、例えそれが薬のせいでも、自分のことを想ってくれていて、何もしないでいることなんて、優吾には辛すぎた。
後で怒られたって構わない。
軽蔑されても、それは優吾が悪いのだから仕方ない。
否、もしかしたら、薬の効果が切れても純は優吾のことを想い続けてくれるかもしれない。
可能性がゼロでないなら、そちらの可能性にかけてみたい、そう思った。
「純」
優吾はちらりと純を見て、反応を伺った。
名前を呼んだだけなのに、純は恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「好きだよ、純」
だから、と優吾は純に近付き、下から顔を覗き込む。
「ぎゅってしていい?」
「……うん」
優吾は純を優しく抱きしめた。
純のいい匂いがする。
なんて幸せなのだろう。
ずっとこうしていたい、そう思ってしまう。
「ユウ」
純は優吾の背に手を回し、抱き返してくれた。
「いいよ、して」
「……なに、を?」
否、今の質問は愚問だったかもしれない。
これ以上の行為をするのは流石に優吾の良心が痛む。
キスするのは薬の効果が切れて本当に好きと言ってくれた時に、と思っているからだ。
今は惚れ薬の力で優吾のことを好きでいてくれるけれど、実際は分からない。
薬がきれてしまったあとのことを考えるとこれ以上の行為はできない。
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