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第5話
いい日には、、
ならなかった、、、、
「山本、ごめんけど嫁が熱出して子供のお迎えやら世話やらしないとだから、プレゼン資料の修正とプリントアウトお願いできる?本当にごめん!!」
「わ、、分かりました!奥さん大変っすね。。お大事にです〜」
その日の定時間際、申し訳なさそうな顔をした先輩に呼び止められ、この有様である。
本当は(まじかぁー、週の半ばにいつ帰れるか分からない残業とか、ダルー)と思うが、ごますりでもなんでもやって、αの同期に追いつかなければ!というのが基本思考な俺。当然の如く、引き受ける。先輩も、本当に申し訳なさそうに、切羽詰まった様子だったし。
「うーん。。」
前半はサクサクと作業は進んだが、あと少しと言うところで、詰まってしまった。
社内の時計を見上げると、もう22時過ぎ。残業をしている社員も、もはや俺1人だった。
「組み込まれたマクロがよく分からん、、、」
「これよく見るマクロだよ。」
「わっ!」
声に驚いて顔を上げると、星野が爽やかな微笑みをうかべて、真横にいた。
(え、いつの間に、、あぁ、コイツも同じフロアだったか。てか、相変わらず近いし。)
「そう、なんだ。。じゃあ、ネットで検索したら直ぐに出てくるかな。ありがとう。」
分かったよ。もう用はないよ。去ってくれ。という気持ちを込めて、早口に捲し立てる。
「‥‥」
「‥‥」
星野はその場を去るそぶりを全く見せず、相変わらずニコニコとその場に立っている。
「星野、もう大丈「こうやるんだよ〜」」
口調はいつも通り緩いのに、有無を言わさない勢いで、星野がマウスの上にある俺の手の上に、自分の手を重ねて操作してくる。
次いで、もう片方の手は俺の座っている椅子の背に回され、後ろから抱き抱えられてる様な態勢だ。吐く息も近くで感じる。
一瞬自分の息が止まり、
――ドキドキ
僅かながらも、心拍数が上がる気がした。
居心地がかなり悪い。
「ここの数字を計算した結果を、あっちに出したいんでしょ?」
「‥うん。」
対する星野はと言うと、上機嫌なのか何なのか、ささっとマクロに数字を入れ、資料を完成させてゆく。
(あっち行けと言いたいのに、なぜこう有無を言わさない雰囲気なんだ。早くこの謎時間、終わってくれー)
俺の手の上にある骨ばった手は、俺の手をすっぽり包み込む大きさ。身体が触れる場所からは、筋肉質な引き締まった身体なんだろうなと思わせる硬い感覚がある。しかし、顔面は甘いマスクをしたイケメン。しかも、配属先での評判も上々らしい。星野の説明を上の空に聞きつつ、俺は星野に男として劣等感を感じるから、コイツが苦手なのかな等と、自己分析をして気を紛らわせる。
「裕太、ここに入れてる数字変じゃない?元の資料何処にあるの?」
(と言うか、何故、対して仲良くもないのに、コイツは名前呼びしてくるんだ。コイツのコミュ力の高さ故なのか?)
「ごめん、間違ってたかも。確かこっちに置いたような、、、」
ガサガサ、、、
場の雰囲気に流され、星野に言われるままに、隣の先輩の席に置いた資料を漁る。
「ん?」
「――っっ!」
隣の席に体を乗り出し、やっと星野と離れられる〜と、のんびりと資料を漁っていると、何を見つけたのか、いきなり星野が更に体を密着させ、PCのモニターを覗き込む。
(いやいやいや!近いを通り越して、押しつぶす気かっっ!きっつ!)
「ちょっ、、、星野、俺、潰されてる。。」
遂にたまらず言う。
「あ、ごめんごめん。つい、夢中になっちゃった。」
何が楽しいのか、より一層ヘラヘラした星野が体を起こす。
馬鹿にしてんのか。
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