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第6話
急な密着は、数字ではなく、マクロが誤っていたのを見つけたが故だったらしい。
結局それから1時間程、不本意ながら、星野にマクロ修正からその後の資料完成まで手伝ってもらった。何度も、暗にもう1人でやるからお前は帰れと言うが、星野は全スルーだった。正直、1人でのんびりやりたかったが、流石、完璧人間様の星野、凄い速さで資料作成は終わり、後はプリントアウトするだけだ。
(はぁ〜、変に疲れたな。)
疲労のあまり、ボーッとしながらプリンターを操作する。星野はトイレへと行ったので、束の間の1人。
(でも、何故ここ迄良くしてもらって、俺は星野が好きになれないんだ。)
改めて、不思議だなと思う。
同期でも、星野を嫌いな奴なんて、1人も居ないだろう。寧ろ、全員に好かれている様に見える。
(変な偏見を持っちゃってるのかな。でも、何だろう、アイツには、何故か嫌な雰囲気を感じる。嫌いというより、怖い。怖い?何だそれ。動物の感みたいに?同じ歳で俺も男だぞ。)
うだうだと纏まらない事を考えていると、プリンターが印刷完了を知らせてきた。同時に、星野が缶コーヒーを2本持って戻ってきた。
「はい。お疲れ〜」
「え?いや、俺が手伝って貰ったのに。」
「良いから良いから。俺、マクロ好きでさ。なんかムキになっちゃって、裕太に申し訳ないとこもあったし。。」
(あー、だから、あんなに食い気味に手伝ってくれたのか。)
不思議だった星野の行動に、やっと納得感が湧く。すると、邪険にしたことへの罪悪感が胸に広がる。
「えっと、星野って家どの辺り?」
「え?なに急に?」
俺の突然の問いに、星野が目を丸くして聞いてくる。いつも涼しい顔をしている星野が、驚いた顔をしており、なんだが少し笑ってしまった。
「あんまり遠かったら、電車の方が早いからあれだけど、お礼に帰りのタクシー代出させてよ。普通はこの後の飯とか奢るんだけど、こんな時間になっちゃったしさ。」
「あぁ、なる程。おれ、錦糸町の方。裕太もだよね?」
「そうだよ。」
(ん?コイツに言ったか?なんでそんな事知ってるんだ?)
少しモヤっとしてしまい、上がりかけた星野株が、俺の中で再び下がる。
「でも、まだ終電まで少し時間あるし、一緒に電車で帰らない?」
「――お、おう。。そうだな。帰ろう。」
とっさに、正直、疲れたし1人で帰りたいとか、手伝ってもらった癖に思ってしまった。
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「裕太〜、支度できたよ。」
気が重くて、だらだらと帰り支度をしていると、キラキラと王子様スマイルを浮かべた星野が横に立っていた。
(しかし、今日の星野は、始終ニヤニヤしてるな。良い事あったのか。あぁ、それで、俺なんかの仕事の手伝いしてくれたのか。。)
基本的にいつもにこやかで、人に囲まれた星野を思い出し、まぁ、いつも、ニヤニヤというか、ニコニコしてるよなとも思った。
「よしっ。もう帰れる。じゃあ、帰ろっか。」
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プルルルルル、、、、
『快速千葉行き、間もなく発車致しますー』
駅のホームにアナウンスが響き渡り、人々が我先にと電車へ飛び乗る。
「星野っっ!いっちゃう、いっちゃうからっっ!!早く!」
兎に角早く家に帰りたい俺、電車に滑り込もうと忙しく星野を焦らすが、星野はというと、
「‥外でそんなにイクイク言うなよ。」
何がボソボソ言いながら、口角を片方だけ上げ、笑っている。
(変なとこでニヒルな笑顔披露せず、はよ、来いやっ!)
なんとか、星野をひっぱり、電車に滑り込む事ができた。
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