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第7話
終電間際の為か、車内は結構な人で混み合っていた。
(しまった、帰りたい一心で走ったが、凄い混み方だな。。)
狭い車内に、サラリーマンらしき人々が溢れていた。電車の出口横のコーナーに俺が立ち、その前に星野が立った。
「夜も遅いのに、凄い人だな」
「本当にね。」
人が多いため、必然的に星野との距離も狭まり、あと数センチで触れる距離だ。そのため話しにくい。。身長差もあるため、俺が見上げる形になり、首も凝る。
それが気まずく、星野から目線を逸らした瞬間、
キキキーーっ!!
電車が急にけたたましい音をあげた
「うおっ、」
いきなり、車内が大きく揺れて電車が止まる。
勢いで、前に立っていた星野に向かって倒れ込んでしまった。
『非常ボタンが押されたため、前車両が安全点検を行っています。お客様には、、、、』
決まり文句のアナウンスを聞きながら、また帰るのが遅れたとがっかりしていた。
「わわわ、、星野、すまんすまん。」
アナウンスに気を取られてうっかり数秒間、星野の腕の中に居座ってしまった。慌てて星野の腕の中から離れる。
「ううん。裕太こそ、大丈夫?」
星野は爽やかに笑い、こちらの心配をしてきた。
(よろけず、ガッチリと、涼しい顔で受け止める。狙ってる子とかにしたら、落とせそうだな。好きな女とかにもこんな顔するんかな。)
ふと、星野の人間味ある話が聞き出せないかなと考える。
電車内でする話でもないかもしれないが、少しざわついて居るし、いいかな?
「星野って、好きな子とかいるの?これまで彼女とかいっぱい居そうだし、モテそうだよね。」
「――へー、そんな風に見える?」
「見える見える。」
星野がピクリと片眉を上げた気がしたが、貶してはないからいいんだろう。変なとこで不思議な間をとるな。俺もいきなり過ぎたか。
「いきなりごめん。今の動きとか、スマートで、彼女とかにしてやったら喜びそうだなとか思っちゃってさ。今彼女とか居ないの?」
「ははは、くいぎみに聞いてくるな。彼女はいないよー。」
(良かった良かった。上機嫌に笑ってやがる。なんか面白い話聞けるかな?)
なんだか、妙にワクワクしてしまう。普段は友達の恋愛やら何やらには、あまり深入りしない派だが、相手はあの完璧人間の星野様だ。一体どんな話が出てくるやら。。
「でも、今、凄く好きな子がいるんだよねぇ。」
「え!!」
(おぉ!いるじゃん!誰だ誰だ⁈)
「誰?庶務の前田さん?いやー、受付の吉澤さんか!?」
「‥ふっ、、違うよ。裕太はあんなのが好みなの?俺が好きなのは、もっと可愛い子なんだ。」
「えー?他社の受付嬢とか?」
社内で可愛いと有名なツートップを並べるも、あんなの呼ばわりでさらりと否定される。
「どうだろ。とにかく、、んー、動物でいうと、リスみたい。小さくて、ちょこちょこ何にでも一生懸命なところが可愛い。リスなのに、ライオンになろうと頑張ってるみたいで、それがまた凄く可愛い。」
「リスー?」
案外可愛い系が好きなのか。変な例え話。
「?」
そう言って、何故か真っ直ぐにこちらを見下ろしてくる星野。なんか、その視線、それじゃまるで、、、
『電車動きます。お気をつけ下さい。』
「おっ、やっと動いたな。」
変な空気になりかけた気がして、話を変え、外をみる。少し強引かと思ったが、またあの居心地の悪さを感じていて、意識だけでもその場から離れたかった。
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「裕太はさ、生田さんが好きでしょ?」
「へ?!何故それを⁈」
電車から降りて、最寄駅からの帰り道、不意に星野が聞いてきた。図星だった。生田さんは、同期の中でも地味な方だが、控えめな笑い方や、色白でいつもほんのり赤いほっぺたが、ふわふわもちもちしていそうで、可愛い子なのだ。
「‥別に誰に聞いたでもないけど、見てりゃすぐ分かるよ。」
星野がこっちを見もせずに言う。なんか感じ悪いな。
「だって可愛くない?俺、派手な子よりも、あーゆ控えめで、優しい子が好きだな。」
「ははっ。どこが可愛いの?控えめなふりしてるだけじゃん。主張するとこはグイグイしてるし。」
星野が馬鹿にした様に笑う。
(なんだこいつ、嫌な奴だな。)
星野に対しイラっとする、と同時に、コイツもこんな風にブラックな事言うんだとも思った。
「じゃ、俺のマンション、こっちなんで。」
何にせよ、家に帰りたい気持ちに拍車かかる。というか、俺の家もうすぐそこなんだけど、星野の家はどこだよ。いつまでついてくるんだ。
「ごめん。気を悪くさせたよね。。うん。裕太、また明日ー」
「‥いや、別に何とも思ってないよ。また明日。」
最後はやけに申し訳なさそうに謝り、あっさり星野は去っていった。
(もしかして、過去に生田さんとなんかあったのか。。?‥まぁ、いいか、今日は凄く疲れた。早く帰って寝よう。)
疲れが限界で、足早に家に急ぐ俺は、俺の後ろ姿をじっとみつめる星野の仄暗い視線に気づくことはなかった。
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