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第9話 ※星野視点
薄暗い店内で、俺の視線の先には膨れっ面の祐太。そんな裕太に、酒を持った吉崎が近寄っていく。順調に進んでいる計画に、頬杖をついた手で隠した口元が思わずニヤける。
事は数日前にさかのぼる。
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裕太が残業をしている事をめざとく見つけた俺は、ここぞとばかりに裕太に話しかける。
遅くまでやってるからどんなもんかと思うと、思いの外単純な事をやっており、これでは直ぐに裕太との時間が終わってしまうと内心焦った。
「裕太、ここに入れてる数字変じゃない?元の資料何処にあるの?」
そこで、裕太の気を晒したうちに、資料のマクロをわざと壊す事にした。これで少しは時間を稼げるだろう。
「ごめん、間違ってたかも。確かこっちに置いたような、、、」
「ん?」
「――っっ!」
しかし、折角すっぽり腕の中に裕太を納め、裕太の匂いを堪能しているところで、裕太が逃げようとした身をよじった気がした。改めて強引に、腕の中へ裕太を納め直す。
(相変わらずのいい匂い〜。こんな匂いさせて、本当にΩじゃないのかな。。?)
「ちょっ、、、星野、俺、潰されてる。。」
裕太が文句の声をあげる。
本当に可愛いなー。裕太が押し返してくるが、それも簡単に制することが出来る。自分が裕太を弄んでいる錯覚を覚え笑ってしまう。
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一緒に帰ることになった帰り道、裕太の好きな子の話を聞いた。好きな子がいることは分かっていたし、自分から始めた話なのに、嬉々として話す裕太にイラッとしてしまった。
そのため少しつっけんどんな態度を取ってしまったら、裕太を軽く怒らせてしまった様だ。
「じゃ、俺のマンション、こっちなんで。」
裕太が短い言葉を言い残し、家に帰っていった。
(まずはあの女を何とかするか。。)
去っていく裕太の背中をみながら、寂しい気持ちが強まり、早く自分の手の中に納めたい気持ちが更に大きくなる。
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次の日の仕事からの帰り道、自分の本音を話せる数少ない友達へ電話した。
プルル、、プルル、、、
「ハーイ?『んぁっ、、つ、ぁっああ、、』」
相変わらずだなー。
「龍介〜ヤリながら電話出ちゃって、声聞こえちゃってるよ。まず、別の部屋に移動してもらえる?」
「あぁ、ごめんごめん。宗介からの電話が珍しいから思わず出ちゃったわ!ってか、聞こえてたか。。おいっ、蒼 !何他の奴に声聞かせてんだ!後でお仕置きな。『――っつ!!』」
ガクガク震えてる蒼ちゃんが目に浮かぶ。。まぁ、他人なんか知ったこっちゃないけど。
「ハイハイ。お待たせー」
「本当に相変わらずだな、お前。ちょっと相談したいことがあって、この後会える?」
「は?!宗介が相談!?珍しいじゃん。」
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「ふーん。蒼もβだけど、臭いはなかったな。したらいい匂いなんだろうなぁ。ってか甘い匂いとか、モロにフェロモンっぽいけど?」
先程の電話の相手である龍介 が、面白がってニヤニヤしながら話している。龍介はβの相手を監禁し、Ωにしようと色々と試している変人だ。‥でももしかしたら、俺もいつかこいつみたいになるのかな。
「そいつ、嘘ついてるんじゃないか?上手くはやってはいるようだが。Ωの場合、自分のバースを偽りたい気持ちは分からなくもない。」
龍介と同族になるのは気が引けると考えていると、落ち着いた、重厚感のある声が響いた。もう1人の友達である、玲次 だ。
「やっぱりそうかなぁ〜。でも、確かにβと言われればそれっぽいし、両親もβらしいんだよねぇ。」
「βの両親から、Ωが産まれることもあるらしい。かなり希な事なので、都市伝説化してはいるが、理論的には充分ありうる。」
「ふーん、、」
玲次は代々医者一族で、彼自身も医学部に通っており、そんな彼が言うとそんな気がしてくる。
「まぁまぁ、仮にβでもさ、色々方法はあるよ?」
「うん?龍介またなんかデータに変化あったか?あったら教えてくれ。」
「は〜い。」
龍介は今、玲次経由でもらった新薬で、蒼のバースが変えられないかとやっているらしい。
「まぁ、βならβで構わないんだけど。どっちにしろ、確証がないと動きづらいんだよね〜。と、いうことで、2人とも、金とかで割りかし簡単に動かせそうな、βの男知り合いにいない?裕太の好きな女に紹介してあげる用として必要でさ。」
「知らんな。大学院に行ったらαばかりだ。」
期待してた玲次がダメかぁ。そうすると、、
「俺、丁度いい奴知ってるよ!」
元気に龍介が答えてくる。龍介の知り合いか、、ま、いっか。
「本当?良かった〜。助かるわ〜」
「ただし、お礼に飯奢ってよ!明日あたり!久々、外食したくてさ!」
「いいけど、あおちゃんはいいの?」
「大丈夫、大丈夫。お仕置きも兼ねて、1日ちょっと、水無し絶食させて、その後水見せびらかしながら、色々させたいんだ!」
「そっかー」
ニヤニヤ人の悪い笑顔を浮かべる龍介、それを眉を潜めて一瞥する玲次。危ない発言はニコニコ聞き流す俺。長い付き合いだが、いつまで経っても変わらないなぁ。一見、全くタイプの違う3人だが、きっと根幹は一緒なんだろう。というか、お仕置きって、あの電話の話かな。。
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