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第11話
「んーっ。、、、っ?!」
いつも朝目が覚めると、布団の中でひと伸びして、枕元のスマホを探る。
今日も同じ様にしてみるも、空ぶる上に、そもそも、布団ではなくベットに寝ているようだ。
「え?なに?どこ?えぇ!?」
がらんとした部屋に、俺のまのぬけた声が響く。
(昨日は、皆でクラブへ行って、生田さんの彼氏が居て、ヤケ酒呑んで、、、呑んで?、、、‥!?)
バッっっっっつ!
思わず項に手を当て確認する。
「‥‥」
どうやら、何事もなかったようだ。そもそも、今はヒートでは無いから、例え項を噛まれても番契約を結んでしまう事はない。だが、いつも項が気になるのは、Ωの悲しい性である。
「裕太、おはよう〜。」
朝日に似合う、緩い声が部屋に響く。
「わっ!!びっくりしたー!星野か!‥え?ここ、星野の部屋?」
いつの間にか、ベットの足元のドアが開いており、そのドア枠にもたれ掛かかり、小首を傾げた星野がいた。白いトレーナーに黒のパンツを着ており、どちらも緩く体の線を見せるサイズ感の為、星野の均等が取れたスタイルを際立たせていた。相変わらずの整った顔に王子様スマイルを浮かべる星野。朝日を浴びて、お前はまるでモデルだな。
「そうだよ〜。裕太が昨日潰れちゃって、丁度うちと近かったなと思って、タクシー相乗りして帰ってきたんだよ。そしたら裕太、タクシーの中でもどしちゃって、軽く惨状で、、、」
困った様に笑いながら、星野が説明してくれた。
「っえ⁈まじか!ごめん!っあ、それで俺このカッコ⁈」
「うん。それで、申し訳ないけど、そのままベットに寝かせれなくて、服を脱いでもらっちゃった。。服、もうすぐ乾くと思うから!」
今になって気づいたが、パンイチで俺は寝ていた。情けなさ過ぎる。。このカッコといい、女の子に勝手に失恋して潰れていたとか。。しかし、星野、、案外良いやつだな。
「星野、、本当に迷惑かけてごめんっ、、ありがとう!」
今までの態度のこともあり、申し訳なさが募る。
「ううん、全然大丈夫だよ〜。それよりさ、」
「うん?」
星野がおもむろに、左手をこちらに差し出す。その手には、Ω専用の抑制剤があった。俺が使っているものだ。
「何で裕太がΩ用の抑制剤を持っているの?」
「‥え」
一見穏やかに微笑んでいるが、その笑顔はまるで仮面の様で、目の奥には鋭い圧を感じる。
ドクンッ、
(え、、、なんで、、)
ドクンッ、
背筋に冷や汗が垂れる。ドクンドクンと騒ぐ心臓の音が、星野に聞こえてしまいそうな程だ。
「昨日バタバタしてて、裕太の鞄のひっくり返しちゃってさ、そしたら出てきたの。」
ドクンッ、
(どう、、言えばいい、、?どう言えば、納得してもらえる?)
「、ね、、、さっきから、ずっと項触ってるけど、、、そんなに項が気になるの?」
ドッ、、!
星野はもう嘘くさい笑顔を浮かべていなかった。真っ直ぐに、無表情で、射抜く様な視線をこちらをこちらに向けている。
まるでベビに睨まれたカエルだ。
(星野が怖い。)
これが、本来のαなんだろう。そして、怯えるのがΩ。動物的な、どんな嘘でも隠しようがない本能が、互いに表へ出ている気がした。それと同時に、その本能に負けたくないとも思った。負けたら、今までの努力が全て無意味になる。
「‥‥っ、あ、、ああ、いつも布団だから、ベットだと、首がこっちゃって!抑制剤は、、友達に頼まれて買ってんだ。俺だと社割で買えるからって、よく頼まれてさ!」
震えそうな衝動を抑え込み、説明を試みる。負けたくない。
「、、ふーん、、、」
星野は無表情のまま、俺を見つめてくる。
これで、信じるか。。?
「そっか〜、ごめんね。変に詮索してるみたいだったね。。裕太が何か困ってるのかと心配になっちゃって。そしたら、力になりたいと思ってね!」
ニヘラっ、、
いつもの星野に戻り、またニコニコとしている。なんなだ。
「服を貸すから、それを着てご飯食べようよ。このままほっぽり出すのも気がひけるよ。」
ニッコリと、いつも通りの星野が居て、なんだかほっとした。
(いや、何故俺がこんなに星野の顔色をうかがってるんだ。)
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