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第27話

朝食後、俺は星野に引っ張られ、外出する事になった。星野がみたいと言う店をみて周り、買い物がひと段落したところでやっと休憩だ。しかし呑気に買い物をする星野を横目に、俺は小一時間ずっと葛藤していた。やり返すと息巻いたの、いざやるとなると勇気がでない…。しかも外だしな。 「裕太、アップルパイ美味しい〜?」 そんな俺の葛藤を他所に、星野がいつもの調子で聞いてくる。そしてそんな星野を、隣の席の人、通り過ぎる人、様々な人達がちらちらと見ている。それがまた、俺がひよってしまう大きな原因だった。星野は背丈もあり顔も整っているから目立つ。コイツはどう見たってαだ。そして星野に不釣り合いな俺。そんな俺が星野に甘えたら、側から見たらそりゃ滑稽にうつるのだろな…。また、俺がΩだと、皆に思われるのだろうか。思えば俺が星野に近づかなかったのは、星野の目線云々以前に、いかにもαな星野が気に入らなかったからな気がする。気に入らないというか、どうしても欲しいものを持ってる奴への嫉妬?Ωな癖に1番Ωを差別してる様な自分が本当に嫌になるし、星野の側にいるとそのことばかり考えてしまうのも嫌だ。あー、本当に嫌になるな…。 「裕太?」 「…」 チュッ 「!うぉわっっっ!!」 ぼんやりと考え事をしていたら、急に星野がキスをしてきたため、俺は大袈裟に驚いてしまう。隣に座っている人が、何事かと目を丸くしてこちらをみている。 「ばっ…!馬鹿野郎!星野辞めろよ!」 「ふふ、油断して…」 首元に星野が顔を寄せてくる。 「俺を蔑ろにするなら、此処でもっと色々してあげようか。」 そう言って、手を腰に回し、顔を俺の首元に埋めてくる。いや、コイツ、アホなのか。隣の人がガン見じゃないか…。 「分かったからっ、やめろっ!あっ…」 身をよじって星野を抑える。星野がどさくさに紛れて耳に息を吹きかけるので、あられもない声まで出て来る。何故…、本来なら可愛い女の子とイチャイチャしたい休日の昼下がりに、こんな奴に襲われてるんだ、俺…。悲しい。 「あははは、顔、真っ赤にしちゃって、可愛い〜。」 ワタワタする俺を見て、星野は満足気に、意地悪な笑みを浮かべる。 (くそっっ!) 少し気を抜くと、すぐに星野のペースで、奴の良いようにされるのが悔しい。 ギュッ… 「?裕太?」 「や…、やっぱり、いいよ。此処で、して?色々。」 星野が口をポカンと開け、いつもはタレて眠た気な目が見開かれ、驚いた顔でこちらをみている。嘘らしい笑顔もなく、かと言って能面のような無表情でもなく、ひどく人間臭い顔をした星野がそこに居た。 (ははは、びびってら。) してやったりで、少し胸がスカッとする気がした。かなりの捨身だがな…。 「いいの?」 ……………え。 ポカンとしたのも束の間、星野が直ぐに甘い笑顔を浮かべ、目輝かせて聞いてくる。 (えぇ?! いやいやいやいや!想像の更に上をいくなこの変態!ダメに決まってんだろ。何、目をキラキラさせてんだ。) 「は、はは、嘘。」 内心、星野の人目をはばからない、変態回答にビビるが、平静を装いながら言う。そして、星野からさっと体を離し立ち上がり、店を出る。星野は俺が店を出るのに慌ててついて来る。 はははは、いつもは俺がオタオタするのに、星野が微妙にビビっているようで、凄く気分が良かった。いつもと立場が逆だ。 よしよし、この分なら想定より早く星野と縁を切れるかもな。もう一押しやっとくか。 横に来た星野に腕を絡め、媚びた目で見上げる。 星野が一瞬固まった気がしたが、相変わらずの笑顔を貼り付けてニコニコしている。あと、苦笑いも少し浮かべた気がする。どうだ、幾度となくこんな女と付き合ってきて、もう飽き飽きなんだろう?徐々にでも「コイツも他と変わらないな。つまんない。」って思ってもらえればいい。 こんな変態でも一応同期だ。自然と星野から飽きもらう方が、波風ただずに良い。これこそが最善の策!とすら思えた。

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