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第30話
仕事終わり、俺は家に帰らず駅に居た。スーツは1番擦れてないやつで、髪も先日切った。おまけに星野は出張で海外。何も問題ない。大丈夫、大丈夫…。そう自分に言い聞かせるが、やはり周囲を警戒してしまう。星野が何処かで見ていそうで怖い。
(こんなんじゃダメだ…。変な人だと思われる。がんばれ俺…。)
なぜこんな所にいるのかと言うと、今日は陽子ちゃんとの初デートだからだ!星野への謎の恐怖と、陽子ちゃんと会えるという純粋な期待でバクバクやらドキドキやらする。初めて自分のバースを知っている、それもαの女の子とのデートだ。上手くいくのだろうか…。
「裕太くーん!ごめんね!会社出るの遅れて…。」
コツコツコツっと、急ぎ足で陽子ちゃんがこちらへ向かってきた。
「全然。大丈夫!陽子ちゃん、連絡くれたし。こっちこそ、俺のタイミングで週の半ばに呼び出してごめんね。」
そう。本当は金曜日とか、もっと言えば休日にゆっくり会いたい。しかし悲しいことに俺にはストーカーがいる…。おまけに出張だったはずがイレギュラーに戻ってきて、俺を絶望のどん底に突き落とすのが星野は得意なんだ…。しかし今日なら、星野は明日の朝からびっしり出張先で会議三昧なので、絶対に戻っては来ない。
「ううん。誘ってくれて嬉しかった!」
そう言ってにこりと微笑む陽子ちゃん。胸がきゅんする。
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「裕太くんって、近づくと凄くいい匂いがするね。」
一緒に夕食をとり、その後カフェへ入った。2人で並んでお茶を飲んでいると陽子ちゃんが微笑みながら呟く。
「え、そう?」
「うん。きっとこれは裕太くん本来の匂いなんだね。私は凄く好きな香り。でもこの匂いが裕太くんを困らせてるのか。…複雑だね。」
「…。」
匂いとか言われると、星野の顔や星野にされてきた事がチラチラ頭に浮かぶ。
風呂で、
玄関で、
外で、
ベットで。
『裕太、凄くいい匂い…。』
「っ!」
考えると直ぐそばに星野がいる気がしてキョロキョロしてしまう。
「…?裕太くん?大丈夫?」
陽子ちゃんが心配気に尋ねてくる。こんな不審な態度をとってしまい陽子ちゃんに申し訳ない。星野、お前変態通り越して最近はもはやホラーだよ…。メリーさん系。
「…うん…。大丈夫。ごめんね。」
「…裕太くんって、時々心ここに在らずになるよね。」
陽子ちゃんがじっとこちらを見つめる。
「本当にごめんね。でもさ、陽子ちゃんが匂いを好きとか言ってくれるの、俺なんだか凄く嬉しい。」
「ふふ…。私、裕太くんに私だけを見てもらうために頑張らないとだな。」
(え、それって…。)
陽子ちゃんがふんわり笑う。
「ね、裕太くん、また会ってくれる?」
「!うん!」
久々に幸せな夜だった。
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最近毎朝、星野が家にくる。会社に行く日もだ。そのため毎朝ブルーな俺だが、今朝は割りかしハッピーだ。同期で雪山に旅行する日だからだ。皆が居れば、前通り星野は一定の距離を俺と保ってくれるはずだ。
「山本は星野くんの車でーす。」
「…はい。」
しかし俺はくじ運が悪かった。誰の車で旅先まで行くのかをくじ引きで決めたところ、俺は見事に星野号を引き当てた。結局、意識して離れていた星野の元に向かってトボトボ歩く。両手をポケットにいれた星野が、キラキラと満面の笑みでこちらを見てるのがまた嫌だ。どうやら星野の車には、俺の他に吉崎と永井が乗ることになったようだ。吉崎がいて良かった。しかし…、
「…吉崎…大丈夫か?」
「…おぉ…。」
「おいー!お通夜かよっ!吉崎、元気出せっ!!フラれた位で男がくよくよすんなっ!」
「吉崎、元気出せ〜。」
なんと、吉崎は彼女にフラれたのだ。しかも昨日。しょんぼりな吉崎の背中を永井がガンガン叩きながら喝を入れている。星野はあんまり興味無さそうだ。ささっとレンタカーの運転席に乗って、座席周りをガチャガチャしながら片手間に励ましてる。冷たい奴だな。
しかし吉崎には悪いが、どうやってフッてもらえたのか気になる。俺は最近恋人にフラれるにはどうすれば良いかばかり調べてる。こんなんで大丈夫なんだろうか…。変に拗らせて、恋愛出来なくなったらどうしよう。
永井が助席に乗ったので、俺は吉崎と後部座席に乗り込む。
「吉崎、あの……何が理由で、ダメになったの?」
吉崎には悪いなと思いながらも、つい聞いてしまった。
「…俺がαだから」
「え?αだから嫌なの?」
「うん。α独特の独占欲の強さとか、あと、セックスがしつこいって。」
「セッ…えぇ!?」
吉崎がぼんやり言う。意図せず友達の性生活の話を聞き戸惑う。αの星野もそんな感じだしαって皆そうなの?まぁ、吉崎とか星野は置いといて、俺の頭に陽子ちゃんがポワワンッと浮かぶ。しつこい……陽子ちゃん…。うむ。それはなんか…、かなりいいかも。等、ふしだらな事を考えていると、ルームミラー越しに星野と目が合う。何故か鋭い目で睨まれる。…運転中は前みろよ。しかし独占欲か。確かにしつこくあれこれ言われると嫌になるよな。よし、今度星野にやってみるか。
「そりゃ、お前、フラれた彼女βだったんだろ?αなら相手はΩにしとけよ。」
永井が呆れたように諭す。
「Ωなら忍耐深くαと付き合ってくれるしな〜。俺は遊びならまだしも、ちゃんと付き合うなら絶対Ωって決めてる。何よりΩはエロくて可愛いからな!ねっ!あらゆるバースと経験豊富な星野もそう思うだろ?」
星野に永井が同意を求める。
「うん。Ωは1番感じやすいかもね〜。俺の彼女だけど、「いやいや、Ωが皆そうとは限らなくない?」
コイツまた変なこと言いそうだと、俺は口を挟む。
「え?そっ?人によるっちゃよるけど、ある程度は傾向がある気がするけどなぁ。あぁ、因みに、山本はどんなセックスするの??」
ニヤニヤしながら永井が振り返って聞いてくる。
「は?いやそれ…、なぜ言う必要ある?」
「えー、いいじゃん、興味本意。」
永井がグイグイ聞いてくる。本当軽い奴だ、人の言い難いところも全部聞いてくる。
「はははは、俺も興味ある〜。裕太はどんなセックスするのか、その口で説明して〜。詳しく。」
そして便乗する星野。ムカつくな。今まで何も話さなかったくせに。こんな話にくいついてくるのな。
「……いや…裕太は、セックスもなにも童貞だから…。聞かれてもだよな。よく、俺は清い身体って、開き直って謎の自慢してるよな。」
「え!そうなの!?まじか…」
「ぶっっ。」
俺が言い淀んでいると、吉崎が気を利かせて言ってくれた。つもりなんだろうが…、それを聞いて星野が吹き出した。ムッとしてルームミラーを睨むと、星野はニヤニヤしながら意味ありげに見返してくる。
「俺が指導してやろうか?」
永井も馬鹿にしたように言ってくるしさ。
「はいはい。今度よろしく。吉崎なら良い人すぐ見つかるよ!ねー、永井いい知り合い居ないの?永井は知り合い多いし、斡旋してあげてよ。」
「いいよ。そのかわり、山本には俺が指導するぞ!今夜だな!」
永井がしょうもない事を言うが、受け流しながら吉崎を励ます。俺はダメージを負いまくりだが、吉崎は皆で話すと少し吹っ切れてきたようだった。とりあえず良かった。
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