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第31話

そろそろ中間地点というところで、お昼にしようとサービスエリアに入った。皆が食券を買っている中、俺は自販機の前にいた。 「うーん。」 冷たい炭酸もいいけど、これからさらに寒くなるし暖かいの買っとくかなぁ。悩んでると、後ろから何かにぎゅっと抱きつかれる。 「裕太の清い体を俺が汚したって、興奮する〜。」 やはりお前か…。星野が後ろから抱きついてきていた。…というか、あの…、密着するとめっちゃ当たるんですけど。出会い頭に興奮してるんですけどこの変態。星野の下半身は何故か既に硬くなっており、それを後ろから俺に押し付けてくる。まさかここでやろうとか言わないよね?俺に戦慄が走る。ていうかさ、俺の清い体を強姦して、普通は『興奮』じゃなくて『申し訳ないな』と思うもんだろうが。 「…宗介、俺は怒ってるぞ。俺以外と随分遊んでたんだな!あらゆるバースと遊び回ったとかいう手で俺に触るなよ。」 すかさず、独占欲とやらを実践してみる。こんな感じであってるかな…。なんか微妙だったかも。 「え〜!嫉妬してる裕太可愛い〜。ねぇねぇ、もっと怒って。」 …ダメだコイツ。更に下半身をグイグイ押し付けてくるし。いくらわりかし人気のない外の自販機前とはいえ、常識人な俺にはアウトなシチュエーションだ。 「でもさ、吉崎の話中一瞬裕太の匂い凄くした。なに?吉崎のセックスの話聞いて興奮したの?」 「…」 …馬鹿ですか。友達のセックスで興奮するわけないだろ。しかし、今いい感じのαの女の子とのセックスを妄想してましたとは口が裂けても言えない。しかし俺の匂いって、そんなの嗅ぎ分けられるの?星野、怖っ……。 「そんなの宗介の気のせいだろ…。もー、とにかく俺はもう行くっ。」 俺はなんとか星野を振り払い、食堂へ向かった。 ---- 粉雪がふわふわとまっている銀世界に、流行の音楽と人々の笑い声が響く。スキー場に到着後、星野たちは滑りに出たが、俺はまだ寒さと星野から逃れたくて外が見える食堂でお茶をすすって居た。 「あれ、山本滑らないの?」 「うん。まだいいかなと。寒いし。」 「雪国にきて何言ってんの!」 ガヤガヤと同期の女の子達が数人来て俺の隣に座る。 「あ、星野くん。」 もう星野に見つかったかとぐっと身構えてしまったが、振り返ると星野の姿はなく、まだゲレンデで滑っている。永井達と笑いながら楽しそうにしている。 「星野くん凄いなー、上手いよね。」 確かに滑るだけでなく飛んだり跳ねたり、回ったりしており、上手いのが俺にもわかる。薄々気づいていたがあいつは運動神経もいいよな。友達とこうして笑いながらスノーボードをしていると、いつもの極悪非道な星野が嘘のように無邪気にみえる。ずっとそうであってくれれば良いのに。 「そして何が凄いって、顔がほぼ見えないのにカッコいいところだよね。」 「だよね。でも顔見えたら更にカッコいいだろうね。」 「本当、何でも出来る王子〜。」 「ほんとほんと、カッコいい。」 「…」 「ねー。あ!山本、私の分もお茶取ってきてー。」 「私の分も」「私のも」 「…うん。」 「大丈夫!席取っとくし!帰ってきたら、私のたこ焼き一個あげるよ!」 「じゃぁ、私はチョコを1つやろう。」 「私はラーメンだから…、何もないけど宜しく!」 「…わかった。」 妹と一緒に育った上にシスコン気味だったせいか、俺は良く女の子にこういう扱いをうける。はぁ、顔が見えなくてもカッコ良くて王子ともてはやされる星野、対する俺は女の子達にパシられ中…。星野の方が絶対に悪なのに、世の中不公平だ。 お茶をくんで帰ると、先ほどの女の子達が更に賑やかになっていた。 (げっ) 横目でこちらをチラリと見て、俺と目が合うとふんわり笑う星野が女の子達といた。 「山本ー!ありがとう。」 「はい、たこ焼き!」 「チョコもあるよ。」 かくして、俺は星野にゲレンデへ引きずり出された。 ---- 音楽がどんどん遠くなる。何故こんなことに。こんなことなら、さっさと吉崎たちと滑りに行けば良かった。隣をチラリと見ると、機嫌良さげにしている星野と目が合い微笑まれる。 ゲレンデに出た後、直ぐにリフトに乗り滑り始めの地点へ向かう事になった。 「裕太どれくらい滑れる〜?」  「全然初心者だよ。毎年1、2回行くか行かないかだし。宗介は上手に滑ってたね。」 素直に感心したことを話すと、星野は更に嬉しそうにニコニコしだす。さっきの無邪気な姿を見た後だからか、今までされたことも忘れ、見ていて微笑ましいと思ってしまう。 「よくスノボとかしてたの?」 「してた方かな?昔からの友達が好きで毎年よく付き合わされてからねー。」 「へー。」 星野の昔からの友達ってなんだろ。妙に気になった。会社以外でコイツのことそんな知らない。 「その人どんな人なの?宗介の友達って、気になるな。」 「えー、なんか可愛い言い方。そうだな〜、どんなって…難しいな…。あ、この曲知ってる?」 「は?」 この曲って、今ゲレンデに流れている曲か。確か、歌手の龍介がメインボーカルのバンドだ。めっちゃ有名じゃん。いや、てか、話飛び過ぎじゃない? 「知ってるよ。俺結構好きだし、このバンドの曲。…あー、でも、これラブソングか。俺、龍介のつくるラブソング、好きじゃない。なんか歌詞が怖い。」 「ははははは、いいねそれ。」 「?他の曲は好きだよ?」 好きじゃないというと突然笑い出す星野に、俺の頭の中はハテナだ。怖いってのは、龍介のラブソングを聞いていると星野を思い出すからなんだけど…。星野と龍介、全く接点はないだろうが、お前ら考え方全く同じだろって感じだ。龍介に彼女が居たとして、いやきっとイケメンだからいるだろうけど、その子はあんな狂気じみた愛を受け止めれてるわけ?あーあ、龍介のラブソング聴いていると、さっきみたいに暖かい目で星野を見れない。早く違う曲になってくれないかな。 「あ、着いたね。」 そうこうしている間にリフトが滑り始めの箇所につく。星野の話が尻切れトンボで気になるが、この、リフトから降りる瞬間が俺は苦手だ。星野はボードを足に装着したままだけど、大丈夫なのか? 「よっ、、と、わわっっっ!」 「おおっ。」 案の定ツルっと滑り転けそうになるが、星野にギュッと支えられる。 「ありがとう。」 「ふふ…」 まるっきり初心者と経験者って感じだ。それが恥ずかしくて、小声でお礼を言うと笑われた。

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