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第32話

自然と眉間にシワがよる…。 「裕太〜、早く滑らないと、邪魔になるよ〜」 「…」 何故なら、変態がキラキラとした笑顔で、こちらに向かって両手を広げているからだ。 星野は俺の正面にこちらを向いて立っている。このまま向かい合った形で滑ると俺の滑る姿が見えるので、指導がしやすいからそのまま滑れと言う。俺としては凄く滑りにくい。両手を広げてるのは、俺が転けた時に受け止めるためか?滑りににく過ぎて、逆に妨害されているようなんですが。 でも、確かにさっきから周りの視線が痛い。星野を見てるのか、動かなく邪魔な俺を見てるのか…。仕方ない滑るか。 俺は初心者丸出しでノロノロと滑る。 「わ〜結構うまいじゃん〜」 「…」 星野…褒めてるつもりだろうが、さっきの星野のあの滑りを見た後にお前にそう言われると、なんか逆に馬鹿にされてるみたいなんだけど。 「ふふふ、プルプルして……真剣な裕太、可愛い〜」 ボソリと言われても、向かい合ってんだから聞こえてしまう。やはり馬鹿にしてんのかとムッとするが、無視して滑り続ける。 「うーん、あれかな?裕太、もっと腰をぐっと下げて…」 あぁ、女の子達がチラチラ星野をみて滑ってく。そんな女の子に抜かされるのやら、星野が煩いやらで滑る事に集中すべきなのに、雑念が次から次に湧いてくる。だからだ、確かにこの時俺は注意散漫だった。 「…裕太?裕太!!まっ……!!」 へ? 妙に焦った星野の声が聞こえて、何事かと顔を上げると体が大きく傾いた。 「わっ……!わーーーーー!!」 ドサドサドサッッ 一瞬星野が俺の腕を引っ張り持ち堪えるが、重みに耐えきれず、結局星野と俺はコースの脇道に転がり落ちてしまった。 「つぅっ……!」 「うーー。」 うめく星野と俺。俺の下には星野。どうやら落ちる瞬間、星野が俺を引っ張ってくれたおかげで、俺は星野を下敷きに無傷で無事だった。 「うわっ、宗介、ごめん!大丈夫か?!」 「うーん…」 「悪いっ、今、退くっ!!」 流石に星野とは言え、心配になって安否確認するも、星野は眉を寄せうめいた。不味そうだと、星野の上から退けようとするが、何せ両足がボードに固定されており、うまく動けない。もぞもぞとイモ虫のようにもがく。ダメだ、なんとか… 「ふっ、ふふっ…ふふふふ」 え? 星野の上でばたぐるっていると、急に星野が吹き出して笑い出す。頭打って元々おかしいのが更におかしくなったか?やばくないか?? 「何?大丈夫?」 星野の頭の両サイドに手をつき不安げに顔を覗き込む。 「いや、裕太に襲われてるみたいでこれ良いなって思って。」 「…」 はい、全然、まだただの変態でした。 ゴンッ 「った…。裕太なにするの〜。酷い〜。」 「うるせー。」 そのまま、俺は星野に頭突きしていた。しかし、俺の頭も痛い。捨身過ぎたか。星野は文句を言いつつもニコニコ嬉しそうにしてるし。 「…うっ!」 急に星野に片手で抱きしめられ、星野に密着する様に倒れ込んでしまう。 「ちょっ、誰かに見られたらまずいだろ!」 俺はもがもがともがくが、星野はふぅっと甘い息を吐く。 「こんな脇道にいるんだから、大丈夫だって。はぁーっ、裕太の香りに包まれてるみたい。幸せ〜。」 「お前さ、やたら香り香り言うけど、そんなに俺臭う?」 いつも感じていた疑問をぶつけてみるも、星野は笑うだけだった。俺、臭いのか…? 「じゃあさ、」 「?ぶっっ!」 後頭部を掴まれたかと思うと、星野の首筋に顔を押さえ込まれる。 「…!」 ふわりと、星野の香り?がする気がした。ゾワりとするような…なんだこれ、無理矢理ヒートになった時のような焦燥感を感じて焦る。 「…っ、やめろよ。」 「ふふふ。ど?」 「はぁ?どうもしないけど。」 本当は微妙に呼吸が上がっていたが、気付かれたくはなかった。 「嘘つき。」 そう言ってぐっと股間を足で押される。 「ふぅっ…!……え。」 俺の股間は反応していた。星野の匂いを嗅いだだけで。自分でも戸惑う。馬鹿野郎とか言ってやらないとなのに、得体の知れない恐怖でつい星野に縋る様に目線を向けてしまった。 「そんな顔して見つめないでよ。こっちも反応したら、収集つかないでしょ〜。ふふ。いっぱいエッチしたら、条件反射で反応するらしいよ。どうかなと思ったけど、なんとかその域に達してて嬉しい〜。」 言ってる事がゲスなのに、星野はふんわりいつもの王子様の様な笑顔を浮かべる。 「きっと、抑制剤飲まなきゃもっと嗅ぎ分けられるようになるのにな〜。俺と番契約を結んだら、抑制剤なんて飲むの禁止だからねっ。」 「……やだ。こんなの、俺はこんな…。くそっ、離せっ!」 こんな身体になってしまったのだけでもショックなのに、番契約とかチラつかせられると…。平常心ではいられなくなる。 「痛っ!」 「…あっ…。ごめっ……。」

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