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第33話

俺は星野が嫌いだ。例えば、こういうところ。 「裕太、あーんして、あーん。」 「……左手で食えば?」 俺と星野は呑気に宿泊するホテルで夕飯をとっているが、星野は俺を庇い右手を怪我してしまった。そのため星野の右手はぐるぐるとテーピングされており痛々しい。他の同期メンバーはというと、俺達が病院に行っているうちに粗方食事を済ませていたようだ。そのため人が疎らなレストランで、2人っきりで遅い夕飯となってしまった。 そして、人が少ないのをいいことに、星野がすこぶる調子づいてやがる…。怪我をさせた手前、俺も強く出れないし…。何この罰ゲーム。 「おー、裕太、星野!大丈夫なの?」 そんなこんなしている中、らしくない心配気な顔で永井が近寄ってくる。丁度夕食を終えたところのようだ。 「あぁ、永井、大丈夫。ただ、右手は使えなくなったわ〜。帰りの車どうしよー。ごめんな。」 「は?!車とかどうでもいいって!てか、折角の旅行で、やべーな!しかし、はは。星野がスノボで転けて怪我とかウケんな!猿が木から落ちたな。ははは!」 「本当〜。」 「なんで怪我してそんなに嬉しそうなんだよ!ドMか!」 「あはははは〜。」 確かに、星野は怪我をしている割にヘラヘラしている。俺もつい胡散臭げに星野を見てしまう。 「けど、山本は無事で良かった!」 「?」 「山本は、今夜、俺との『指導』があるからなっ!」 「はぁ…?」 おいおいおい!指導って行きの車での話? ニヤニヤする永井を俺は呆れた顔で見た。呆れ過ぎて、何も言えずポカンとしてしまう。 「じゃ、今夜な!裕太くん!」 そしてポカンとしているうちに永井は去っていった…。裕太くんって…、突然馴れ馴れしいのな…。本当にお調子者。 「お、裕太ー!星野!大丈夫なの?」 「あぁ、吉崎ー!」 俺は久々の安心感ある友達に、思わず目を輝かせる。吉崎はこの旅行でなんとか持ち直したみたいだ。いつものように冗談を言い合ったりと、とにかくもっと話したい。 「あぁ、裕太。俺、先に風呂入っちゃった。ごめんな。てか、皆もう入っちゃって、この後部屋で飲み直そうって話してるから2人も早く入ってきなよ。もうボチボチ集まってるみたいだぜ。…??星野、大丈夫?」 「…大丈夫だよ〜。吉崎、心配してくれて、サンキュー!」 何故か心配そうな不思議そうな顔をする吉崎を横に、俺は星野と2人風呂とか嫌だな。あぁ、そうか。星野あの手のだから入れないか…。等、悶々と考えていた。だからその時に星野がどんな顔をしているかなんて、全く考えていなかった。 ---- 「え。入るの?」 「なに?文句あるの??吉崎とは入る約束してたみたいなのに。ね?」 「へ?…えと…。」 食後、一度星野と別れ温泉へ向かうと入り口に星野が立っており、思わずきいてしまった。すると、星野がニコニコと文句あるのかと言ってくる。目が笑ってない。怒らせたか…? しゃーない…、 「ほら、星野は今手がこうだし。」 俺は媚びたように星野を見上げて、星野の怪我した右手に触れる。はいはい。これで機嫌なおるだろ。 「……ふーん。」 しかし星野はそんな俺を冷めた目で一瞥するとすっと離れ、1人でスタスタと温泉ののれんをくぐって先へ進んで行った。 え、なんなん?!さっきまでびびっていた気持ちはどこへやら。俺の怒りパラメータが急上昇する。 …いや、まてよ。なんか知らんが、もしかして、媚びた(演技)俺に、星野は嫌気がさし始めてる?もう少しなのか?!そう思うと、俺はなんだかテンションが上がってしまった。 「……は、ははは、怒るなって、宗介〜!」 脱衣所で手早く脱ぎ、ニコニコと星野に近づきながら話しかける。しかし星野は片眉を上げてこちらをみるだけだ。人にこんなに邪険に扱われて嬉しいなんて、俺は多分もう変になってる。しかし謎のハイテンションが止まらない。だってついに、この変態星野と決別の時なのかもしれないから! まだまだ俺はニコニコしたままシャカシャカと頭を洗っていた。すると、星野が怪訝な顔で尋ねてきた。 「楽しそうだねぇ〜。」 あ、やば。確かに、顔に出過ぎてたか。 「あー」 俺は自分の頭の泡をシャワーで流して星野に向き合う。 星野も髪を洗い終えたところのようで、いつもの緩くフワフワした髪が濡れてオールバックになっていた。男感が凄いな。てかほんと、イケメン。こんなイケメンなのに変態とか…残念な奴。まじであれだ。星野は残念な生き物図鑑に登録すべきだ。 「あの…、2人で温泉とか、嬉しくて?」 「…。」 俺は謎のテンションのまま星野にふざけたつもりで恥ずかしいことをいう。星野もデレるか笑うかすると思ったのに、何も言わずにじっとこちらを見るだけだ。気まずい。 「あー、ほら!宗介、背中流してやるよ!」 「…うん。」 あ、やっと笑った。ちぇ、呆れてくれてても良かったのに。 星野は俺の提案に久方ぶりにニコリと笑った。 俺はやっと笑った星野に、安心したような残念なような訳の分からない気持ちになる。 「その後に、裕太も洗ってあげる。」 「あ、うん。でも、手怪我させちゃったし、無理しなくていいよ。」 俺は星野の背中をゴシゴシと洗う。広くてがっかしりとしており、肩甲骨から背中にかけてついた筋肉が手に触れる。Ωは中性的な性質のせいか、余り筋肉がつかない。寧ろ太りやすい。αはその逆。身体が強くしっかりするらしい。正直、羨ましい。 「宗介、ほんと良い体してんな。羨ましいー。」 思わず、思ったままを口に出してしまった。 「ははっ。裕太って、本当にエッチな事ばかり考える〜。」 あぁん? 確かに、ぼんやりと思ったままを口に出して、後からしまったなと思った。しかしそれをこんなふうに、鼻で笑いながら星野に言われると微妙にカチンとくる。 「…そんなんじゃねーし。…。はい、終わったよ。」 「うん。ごめんごめん〜。はい、次は裕太の番〜。」 「……あの、ほんと、無理しなくていいからさ。」 「いいって!」 先程の不機嫌は何処へやら。ニコニコと楽しそうにタオルを泡立てる星野に妙な恐怖が募る。 変な事されないよな?さっきまであんな態度だったくせに…。 結局強引に星野の前に座らせられた。 ゴシゴシと、絶妙な加減で背中を洗われて、結局は肩の力が抜ける。 「……ふっ。」 「ふ?」 「あ、いや…。」 星野が屈み、星野の体が息遣いが聞こえるほど近づき、俺の耳のすぐ後ろにそのの吐息が聞こえるとぶるりとしてしまい、妙な声を出してしまった。恥ずかしい…。 「……ふふ、なんで鳥肌たってるの?」 「っ、ちょっと、そんなに触んなよ。」 ぬるりと石鹸でぬめりを帯びた手で肌を直接触られ、更にもぞもぞとした感覚が強くなってくる。え、勃ってないよね?焦ってチラリと自身をみると、しっかり自制出来ていた。良かった…。最近星野に色々されて、俺の息子は俺をよく裏切るんだ…。 「え?なんで?」 「なんでって…」 「触らないと洗えない〜。んー、触らないでって、例えばこんなふうに?」 そう言って星野の手はぬるりと俺の前に出てくる。ち……乳首…っ! 僅かに乳首の周りをくるくると触られ、ざわざわと妙な気持ちが昂まる。 「もっ、これは背中洗ってる域超えすぎだろ。ふっ、やっ…、やめろって…」 「……ふっ。わかった〜。なんで声上ずってるの?じゃ、身体洗って温泉浸かろっか。」 「あぁ…」 なんか思ったよりもあっさり解放してくれた。しかも今は少し機嫌良さげだ。しかし…なんなんだよっ!怒ったり機嫌良くなったり、何なのか意味不明!あー、変に、ムラムラしちゃったし。昼の匂いどうたら発言に加え、もう認めざる得ないのか…。俺の身体は完璧、星野よって開発済みですってか?最悪過ぎるだろ…。

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