37 / 63

第35話※永井視点

αの特権は確かに色々ある。羨ましいとかも言われる。番契約も魅力的。だけど本当にそれだけだと思ってる? 俺はαは安泰だとか言われるたびに、分かってねーなって思っていた。αは傾向的に言うと、なんてか、重い奴が多い。競走ごとにもすぐむきになるし。権力者にαが多いって、当たり前だろ。αってのは半端ない負けず嫌い、闘争心剥き出しの奴らなんだから。 恋愛になるとそれは特に顕著。相手の全てを独占して、全てを管理して、自分だけに向かせたくなる。だから、本気になればなる程相手は離れてしまう。こんなの欠陥品だろ?俺は自分も含め、αは皆おかしいって思ってる。権力ある欠陥品の集まりだ。それを受け入れてくれるのはΩだけ。 その点、星野は上手いなぁと思っていた。何にも執着せず、交友関係は広くて、女とは遊びまわって。皆所詮は遊ばれてるのに、星野の口のうまさと整った容姿に惑わされ、相手をして『もらってる』って思ってる。笑っちゃうけど、俺もそいつらを悪くは言えない。俺も星野とはよくつるむ。単純にやっぱりこいつといるのは楽しくて、真偽は置いといて悪い奴じゃないなって感じ。 「ねー、永井くん、星野くんって最近忙しいの?」 「あー」 最近よく聞かれるやつ。また始まった。合コン中に不意に聞かれて内心うんざりする。 「知らねー。けど、俺は超ひまー!どっ?」 「えぇ?うーん、まぁ、良いけどさぁー。」 別にこっちも気持ちこもってないんだから、お互いギブアンドテイクで一晩いいじゃーん。勿体ぶるなよ。とか思うけど。それより、確かに星野は入社以来変だ。 呑み会に顔を出す頻度は極端に減ったし、聞く話では個別で女の子と会うのはパッタリとなくなったらしい。皆同じ会社の俺に探りを入れてくるのがちょっと面倒い…。 本気で好きな子が出来たとか噂されてるけど、星野にしては落とすのに時間かかってんなー。星野の本気になる子って、まぁ、俺も興味あるけど。どんな女の子だろう?可愛い系?ギャル系?星野の今までの女の子遍歴を考えるが……俺が知ってるだけでも遍歴が多すぎて傾向もクソもない。星野は、雑食でよく食うんですねってイメージ。 (俺だったら…) 俺はチラリと斜め前に座る山本を見た。 「山本ー!合コンでジンジャエールかよっ!酒のもーぜ!!ジンジャエール好きなら、ジンジャーハイボール頼むか?」 からかうと、ムッとした顔で山本がこちらを見る。 「俺はこれでいいんだよー!」 「えー。」 小さくて、ツンツンして、いつも一生懸命で、けど時々ヘラヘラなんか抜けてて、可愛い。俺は女が好きだけど、Ωなら男も範囲内。山本はあった時良い匂いがしたし、勝手にΩだと思っていた。同期内でもΩの男がいるとかちょっと皆ざわついていた。しかし蓋を開けるとやっぱりβらしい。けど、俺は最初意識したからかなんなのか、結構山本が好きだ。自分の範囲を広げてもいい位には。 「裕太くん、お酒苦手なの?」 山本と会話してると、他の女の子が割り込んできた。陽子ちゃんと言っていた子だ。黒髪で猫目が印象的。βとか言ってたけど、多分コイツはα。山本は陽子ちゃんにヘラヘラしており、俺はちょっとモヤッとはする。けど山本はβなんだ。俺は深入りしない方がいい。どうせαとはうまくいかない。 けどなんか気になって、結局見てしまっていた。まるで監視してるみたいだ。 だから、山本が実はΩだと聞こえた時は息が止まるような気がした。その後に喜びがどっと溢れた。 そんな俺にこれは目の毒だ。 同期旅行の夜、皆で夜中に集まって呑んでいると急にトイレに行きたくなった。そのトイレ帰り、山本を抱えた星野にあった。いや、てか、お姫様抱っこかよ。 「あー、永井〜!」 「ぉ…おお、星野!風呂上りか?」 ファストファッションを着てもお洒落に見える星野、浴衣がめちゃくちゃ似合ってますね。微妙に濡れた髪が更にイケメンだな。って、いや、問題は星野ではなくて… 「どした?それ…」 「…あぁ。裕太お風呂でのぼせちゃったみたいで。」 星野に抱えられ山本は、ぐったりしている。いるんだが…。上気した顔は悩ましげに歪んで目をつぶっており、口だけ僅かに空いている。髪が濡れており、それが艶かしさを際立たせる。 ごくり… いや、俺…そこそこの経験値はあるんだが…。これはちょっと目に毒って感じ? 「ははっ、永井、これ欲しい?」 は?これって、山本の事?……欲しい。普通にめっちゃテイクアウトしたいけど?星野が山本を抱いた手を、ぐっとこちらに近づける。 「何言ってんだ?はは?本当にくれんの?」 「そうだな…ふっふ〜ん♪」 なに?星野は鼻歌を歌いながら山本を廊下の壁により掛けて置いた。本当にいいの? 「…!?」 しかしそのまま星野は屈みこみ、山本に口づけをした。しかも、かなりねっとり濃いやつだ。 星野と山本の唇から、くちゅりと卑猥な音がしている。俺は思わず食い入るようにみてしまった。 えー!ええええ……えっろ…。 山本の顔が更に歪んで、キスの合間に顔を逸らして何か弱々しく悪態をついている。しかし星野に強引に顎を掴まれて抑えられ、結局は再びしつこいキスをされていた。 「…ふっ」 星野がキスをし終わると、また山本はぐったりと静かになった。そして、星野がこちらを振り返った。 「え?星野……もしかして、星野の…」 言いかけたところで、星野は唇に人差し指を当て、『しぃっ』と口を動かし、悪戯っぽく笑った。しいって…。俺の言わんとしてる事は正解だけど、黙っとけよってことか?なんだそれ…。 「…」 「永井。これは、ダメ。俺のだから。」 「……ちっ。あーあ、分かったよ!どうせ、星野にはかなわんから。」 本当は…良くない。けど、今はこう言うしかない。 「…ははっ。さて、じゃ、俺は裕太を少し休ませてから皆に合流するね。お風呂でいっぱい遊んじゃったからね〜。」 いつもの調子でニコニコとそう言い、星野はまた山本を抱え直した。 随分見せつけてくれて…お風呂でなにしてたんだよ。確かに、最初から山本は風呂上がりだってのにやけに良い匂いがした。 あーあ、羨ましい。 まぁ、バラすなとは言われたけど、ちょっかい出すなとは言われてないし?なんか雰囲気、山本は嫌そうだった。そもそも、元々、山本は星野が気に食わなそうだった。 だからいいよな? いつか俺も、山本と『遊び』たい…。あー、αって本当に面倒くせぇ。

ともだちにシェアしよう!