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第36話

あー、なんか、クラクラしてた頭が、落ち着いてきた…。地に足着いたような感覚…。 「流石、星野、つえー!」 「永井も運動出来る方だし、まだ分からんぞ。」 「えー腕相撲に運動神経とか関係ある?」 「2人とも利き手じゃない分、勝負もわからんし、接戦だな!」 ……うるせー… あ、なんだっけ…。 そうか、俺、旅行…で、星野と…、星野! 「!!」 「お、裕太大丈夫か?」 星野をぶん殴るという事をモチベーションにガバリと起き上がった俺は、どうやら部屋の隅で、畳の上に寝かせられていた。腹の上に掛かっていた浴衣の羽織りがバサリと落ちる音がした。目の前では、吉崎が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。 あたりを見渡すと、広めの畳部屋に同期ほぼ皆が勢揃いその中央のテーブルでは、 「…なにしてんの?」 星野と永井が左手で腕相撲をしていた。一応ちらりと確認すると、星野の右手はきちんとテーピングがし直されている。 「腕相撲だよ。勝った方が負けた方になんでも1つ命令できるんだって。面白い事考えつくよなっ!」 何?!ということは、俺が勝ったら星野に、俺のヒート中の生き恥映像を消させられる?!俺が思うに、星野に番契約をさせられるネタはあれだ。何としてと消させねば!!何処まで命令を守ってもらえるかは謎だが、αは勝負事で案外嘘つかないイメージだ。これは、やってみてもいいのでは…! 「星野っ!!」 「え?」  「!!」 「「おぉ!!」」 俺は思わず星野を呼んでいた。あ、星野は永井と勝負中だった…。 案の定、星野は俺の声に反応しこちらを向いた。その為力が抜けたのか、その隙を永井に突かれ、あっさり負けてしまったようだ。周りがどよめいた。 「おー!永井が勝った!!」 「まさかの星野が負けた!!」 星野が何かに負けるなんて珍しいからか、周囲がざわざわとする。……流石にまずかったな…。まぁ、永井の命令ってなんかライトそうだし。合コンで客寄せパンダさせられるのがオチだろう。 「ふふ、星野、俺の勝ちだな!俺の命令は…」 ?永井はニヤリと笑って、こちらを見ていた。その正面で、星野が僅かに眉をよせた。 「裕太が邪魔したんだから、今のなし〜。」 「いや!勝負は勝負だろ?寧ろ、俺と山本の連携プレイが成した結果的な?」 「はぁ〜??」 星野はニコニコしているが、永井との間には不穏な空気が流れていた。いや、それよりも。 「それより、星野!俺と勝負しろ!!」 「…」 「おぉ!!」 「万年2位だった山本が!」 「なんだ?山本が本気だぞ??」 「こりゃまたみものだな!」 …万年2位言うなっ!俺は新人研修中のテストで毎回、星野に次いで2位だったので、よくこの弄られ方をしていた。腹立つ! 星野は何か考えるように珍しく真顔でじっとこちらを見つめていたが、その顔を急にパッと明るく変えた。 「…ふっ、いいよ〜。けど、ルールは知ってるんだよね?俺が勝ったら、ふふ、裕太になにさせようかな〜?」 「!」 ぐっ。いったい何させられるんだろう…。星野が仄暗く笑う。もしや、俺、自分の首を絞めた?いやいや、星野の利き手は右手で、その右手は負傷中だ。可能性はある。 「はいはい、山本!こっちゃこい!」 少したじろいでしまったが、同期は黒い星野を知らない。手招きされ、星野の正面に座らせられる。 「山本、大丈夫かよ?」 「大丈夫っ!」 永井と入れ替わる。入れ替わる際、何故か永井に心配されてるしっ! 「はい、握って〜。」 同期の掛け声に合わせて、ギュッと星野と左手を握り合う。星野の手の方が大きくて、骨張っており、既に負けてる気がする。そして星野と目が合うと、ニヤリと笑われた。…くそっ、そう簡単に勝てると思うなよ! 「よーい、…はいっ!」 ぐっ! ぐっっ!! 合図を機に、星野と俺双方が力を込める。 うぅ、重いっ!ぐーーーっ!!負けそ…! 「…っ!」 ぐぐ……ぐ… 俺の左手が星野に押されて傾く。 「おぉ!押されてる!」 「流石に星野と山本だと、体格差もあるしな〜」 「星野、余裕そうじゃん」 ちょっっ…まだ、負けてない、しっ! 何故かもう俺が負けたような会話がなされており、内心焦る。 「ふんっ!」 「お〜」 「お!山本が巻返しか?!」 俺は変な掛け声と共にさらに力を込める。俺は俯き手に全集中しているので星野の顔は見えないが、星野の意外そうな声が僅かに聞こえた。つか、「お〜」って…。軽いなっ!でも、ここからだ! ぐぐぐぐぐっ! 「まじか!?」 「星野、まさかの二連敗?!!」 星野の手が傾き、机につきそうになる。同期が俄然ざわざわしだす。 どんなもんやっ! 「…ふふ、裕太とこんなに手を繋げるの、嬉しい。」 は? 多分周囲には聞こえない、ボソボソとした小声で星野がそう呟いた。俺は星野の変態発言に思わず顔を上げた。もうじき自分が勝つだろうとも思って油断していたのが悪かった…。至近距離で星野と目が合うと、星野はスッと目を細めて… バンっっ! 「あー!やっぱり星野の勝ちかー!!」 俺は負けてしまった。

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