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第37話

「じゃぁ何してもらおうかな〜。」 「待て待て待て!今のは星野がっっ!」 「え?俺が?何??」 「…!」 星野が……変態な事を言った。なんて、皆の前で言えるわけない。だって言ったら、『え?山本相手にあの星野様が?』『そんな事言うわけないじゃん。山本自意識過剰ー。』ってなるのか?もしくは、『えー、山本って男が好き?じゃ、合コンもう呼ばないね。』ってなるの? どれも嫌だ…。 俺はぐぬぬっと黙った。星野はそんな俺を見て、ニヤニヤ笑ってる。ねぇねぇ!誰か見て!この黒い笑み!! 「よし決めた!裕太は俺の右手が治るまで、俺のお世話係ね〜。」 「へ?そんな事でいいの?」 「いいよ〜。完治まで裕太は俺の下僕だからね。俺に全力で尽くすようにね〜!」 「あー…」 いやまて、よく考えたら、あまり良くないぞ。完治まで、オフィシャルに星野にひっつかれるのか……。俺に安息の地はないのか。…まぁ、俺はモヤっと参加しただけだし…。数日だけ付き合って、後はモヤっと無かったことにしよう。うん。そうしよう。 皆が呑気に半分茶化して「山本がんば〜」「下僕〜」とか言ってる声が恨めしかった。八つ当たりだけども。 その後また暫く騒ぎ、さぁ寝るかとなったのは深夜を回った頃だった。 「……星野、隣で寝るの?」 「文句あるの?てかいつまで星野って呼ぶの?」 「…いや、皆いるしさ…。」 皆に、山本は星野様の下僕だから!とかいじられ、俺は星野と同じ部屋に割振られた。まぁ、そこはギリギリOK?としても、6人用の和室で他の同期もいるにも関わらず、星野はニコニコと俺の横に布団を引き始める。寝る瞬間までくっつかれると嫌だ。しかも俺は布団を壁際にひいてしまい、星野と壁に挟まれる事になる。これで寝るのは圧迫感が凄い。 「なにー?どした?」 「布団の引き場所で揉めてんの?俺何処でもいいから変わろうか?」 「山本、壁際嫌な人?俺は何処でも寝れるからいいよ?変わる?」 「俺も変わってもいいよー。」 「あの、いや!ごめんごめん!俺も何処でもいいよ。騒がしくてすまんなっ!」 俺たちが騒ぐので、他の相部屋の人に気を使わせてしまった…。俺はとっさに何処でもいいといい、その場にひいた布団に潜り込んだ。 しかし俺の不安を他所に夜はふける。室内には同期の寝息が響く。皆深い眠りに落ちたようだ。隣の星野をチラリとみると、寝ていた。俺はなんかそわそわとして落ち着かない。そもそも、友達と泊まると最後まで寝れない人なんだ。星野の家では、色々と、あれがあれして、疲れ果てて寝れるけど…。 「はー…」 しかし俺の人生、いつまで星野に付き纏われるのだろう。あ、そうだ、陽子ちゃんに連絡してみようかな。でもこんな夜中だしな。陽子ちゃんとはいつか付き合えるのかなぁ。陽子ちゃんとの仲、星野に邪魔されないかなぁ。あー、この先が不安で寝れない。 「どうしたの〜?」 「?!おっ、起きてたの?」 ため息をついて今後の人生を案じていると、寝ていると思っていた星野が急に話しかけてきた。大声を出しそうになるが、寸のところで踏みとどまる。びっくりした…。 「うん。」 星野は仰向けの姿勢から、転んとこちらを向いた横向きの姿勢になった。なんか星野、結構眠そうじゃん。 「眠いなら寝ろよ。」 「うーん。裕太がいつまで起きてるのかなーって気になって。…寝顔みたいし。」 「…」 所々に変な発言を挟むな。 「俺は、旅行楽しかったなーとか考えて寝れなかった。」 俺は適当に言う。 「俺も。この旅行来てよかった〜。楽しかったなー。」 「そうか。星野もそう思えててよかった。俺のせいで怪我させちゃったしな…。」 「ううん。そんな事ない。」 「すまんな…。生活、まぁ、アシストするよ。」 正直、そこは本当に申し訳なく思っている。怪我をさせたのは星野の利き手だし、本当に助けたい。…ただ、調子づいて変な事されないか気を付けねば。 「ふふ、アシストは嬉しい。けどあまり気にしないでね〜。俺は裕太のおかげで本当に人生楽しくなったんだよ。この旅行も裕太が居たから楽しかった。」 「…そうか。」 良かったな。しかしその幸せは俺の不幸の上に成り立つような…。微妙だ。 「本当に、裕太に会って俺の人生に意味ができたんだ。ははっ。」 そこまでかよ。 「今までの俺には、何もなくて、目標もなくて、意味もなくて、意志もなくて、」 「…」 「気分的には生きてるのか死んでるのか、それ程差もない人生だった。」 「…」 「αだから出来て当たり前でしょうって、頑張りは評価されないし。でも手を抜いて出来ないと四面楚歌。俺の人生ってなんだろうって。」 「…」 「どんどん歪んじゃって、変になってた。自分の事も周りの事も、無機質な物に思えて、雑に扱って、壊してた。」 星野は淡々と重めな話を続けた。急にそんな話になるので、思わず真面目に聞いてしまう。 てか星野の様になんでも出来る奴が、そんな考え方で生きてた事が意外だ。俺にないほぼ全てを持ってるのに。皆が憧れるαなのに。αにもαの、星野にも星野の、それぞれに苦悩があるのかな。 「でも裕太と会ってからは、急に人間になれたみたいで、毎日が楽しいよ。まぁ、苛々もするけど…ははっ、それもいいよね。人間って感じ。毎朝起きた瞬間、今日は裕太と会えるかなとか、会ったら何しようかなとかって、わくわくしてる〜。」 その顔はニコニコと優しい笑顔を浮かべている。そんな顔をされると妙な気持ちになる。気まずさ?申し訳なさ?同情?悲しさ?後悔?どうしてこうなっちゃったんだろう。だって、俺は…星野の気持ちに応えられないよ。 「目標も出来たんだ。」 「目標?」 「そう。裕太を、監禁して、番契約もだけど、ぜーんぶ、裕太の頭の先から爪先の先まで俺のものにする。って目標。」 「………………………………………え?」 固まる俺の目の前には、相変わらず優しく、王子様の様に笑う星野が居た。 え? き、聞き間違いかな。 え? なな、何? え? うそ? え? えぇ? …… 俺は漫画みたいに、俺の片頬がヒクリッとするのを感じた。 さっきまでのしんみりした雰囲気はなんなんだよ。そういうオチかよ! 「…ぷっ!冗談〜!!ふふ、裕太面白い顔するね!」 「は、ははは…」 お前が言うと、色々際どいんだよ。青くなってる俺を他所に、星野はクスクスと笑ってる。 「でもさ、俺、裕太の為に頑張るね!」 「…」 俺の為ってなんなんだよ。冗談とは言え、あんな事言われた後だとこえーよ。それ以外の感想生まれねーよ!! 本当に星野という奴は分からない。きっと常人に星野は一生理解できないんじゃないだろうか。 「な、なぁ、もう本当に寝ようぜ。明日、俺が運転代るから。」 「裕太ありがとう〜。じゃ、俺はその隣に座ろう。」 星野……、妙な気持ちになったり、怖くなったり、俺もお前と会ってからはかなり人間してるよ…。 暗がりの中で目を閉じた星野をチラリと見て、俺はそう心の中で1人ごちた。

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