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第42話
「裕太、ココア入れたよ〜」
「んー。」
次の日、やはり俺は朝からグロッキーで、星野の家のソファに倒れ込んでいた。体調もだけど、やっぱり昨晩の俺は変態だった…。あんなの俺ではない…。断じて認める訳にはいかない。あぁぁーーー…昨日の夜に戻って自分を殴り飛ばしたい。ついでに、愛おし気に俺の身体、っていうか腰をさする星野も殴りたい。
「でさ、裕太は結局俺のパソコンで何してたの?」
「……あの……」
急だな…。ど、どうしよう。なんて言えば…。
「宗介がどんなAVとか観てんのかなぁって…恋人として、その…、趣向が気になるだろ。抜き打ちチェックしてみようかなぁ…とか。」
「ははっ、何それ?」
鼻で笑われたっ!そりゃ、馬鹿な回答過ぎたか。恥ずかしい…。
「そんなに観たい?俺の、趣向とやらを。」
星野がそれまで俺の腰をさすっていた手を止め、急に覆いかぶさってくる。そして俺の顔をニタリと笑いながら覗き込み、ずいっと迫ってくる。
……なぜか、尻込みしてしまうんだが。星野のヤバさを俺は思い知ってる。星野は俺の今までの人生で会った人、全ての中でぶっちぎりで変態で、サイコで危ない奴だ。踏み込みたくない気もするが…。
「観たい。」
星野と縁を切る為だ。踏ん張りどころってやつだ。
「そっ。」
何故か星野がウキウキした様子で、自分のノートパソコンを俺の正面のローテブルの上に置き起動した。
よし。パスワードを……チェックしておかないと…
…
「え、何で……そんなの知ってんの…」
俺は既にこの時点で星野が怖い。
「そりゃ知ってるよ〜。裕太の社員番号くらいさ〜。」
星野がパスワードとしてスラスラと入力したのは、確かに俺の社員番号だった。社員番号の末尾あたりは名前順に振られている。だから自分と並びが隣の同期の番号は大体分かるけど。山本と星野の間には結構な人がいるわけだ。普通に知ってるのなんて変だろ。
星野はそのまま楽しそうにパソコンを操作している。…俺、これからいったいどんなヤバいもの観せられるんだろう。星野にしたら、メイドプレイとか可愛いもんかもな。いや、ポジティブにいこう。とりあえず、このパソコンのパスワードは分かった。
「インターネットで観ないのか?ダウンロードしてるの?」
「うん。ちゃんっと、大事にフォルダにあるんだ〜。」
どんだけお気に入りだよ。やっぱ気持ち悪いわ、こいつ。
?てか、このサムネイル…。
「じゃーん。」
「そ、そそ、宗介…。これって」
そこにあったのは、俺。
「これは俺の部屋に裕太が初めて来た時の記念動画〜。」
星野の風呂場で、ぐったりしてる俺が色々な角度で撮られていた。
いつかはハッキリしないが、最初?飲み会でつぶれた俺を介抱してくれた時?こんなのが撮られていたとなると、介抱してくれたなんて嘘だと思ってしまう。
「この動画は、付き合って初めてのヒートの時の。」
それは、あの、ヒート中の生恥動画。
その後も星野は興奮した様子で目をキラキラ?いや、ギラギラさせ、フォルダ内の動画を再生しながら説明を続けた。
セックス後、汚れたままの俺の写真。その後処理をされる意識のない俺の動画。寝てる俺。寝てる俺が悪戯される動画。恐らくセックス後、意識が落ちている俺が、星野に更に犯されている動画もあった。
俺は怒りもあったが、それよりも星野の異常性に青くなった。こんなの…ほぼ犯罪だろ…。
呆然としていると、ふいにギュッと星野に抱き寄せられる。
「ね〜?俺の、おかずちゃん。」
妙に艶っぽい声で、耳元でそう言われてキスされた。その言葉はノートパソコンの中の俺に向けてか、俺に向けてか。どちらにしても嫌だ。意識ない自分が強姦されてる動画で抜いてる奴に抱きしめられているって、何?俺は放心状態でもはや無抵抗だった。
「ヒート中のも良いけど、意識なくても俺の手に健気に感じる裕太動画も好きでさ〜。今のところ、1番俺のお世話してくれてる動画かも〜。」
「……消して…」
「えっ!?絶対嫌だ〜!」
「こんなの…怖いって…」
「えー……」
「うるさいっ」
「あっ!」
俺はささっと全体を選択し全てを削除した。俺の動画が全て消えていく。少々衝動的だったが、やってみると呆気ない。これで、こいつに操られるネタはもうない。いや…もう一踏ん張りだ。
「宗介、スマホだして?」
「えー消しちゃうの嫌だ〜。」
…仕方ない。
「宗介には、本物の俺がいるんだから、こんな、偽物いらないでしょ?やりたくなったらしようよ。生身の俺とさ。」
そう言ってニコリと星野を見上げた。星野は少し考える素振りを見せた後、ニコニコとこう言った。
「じゃぁ、キスして。」
俺は微笑んで自分から星野にキスをした。星野もそんな俺にふわりと微笑んだ。
「ふふ、そうだね。裕太、もっといっぱいいっぱいしようね。俺、まだまだ足りない〜!」
「…うん」
なんとか、笑顔を崩さないようにするが…。これには、流石に俺の笑顔の仮面も剥がれかける。
「じゃ、宗介…」
「はーい。」
星野のスマホを開き、写真フォルダを開く。
「……会社で、盗撮しないでね。」
「えー!会社だとあんまり見つめたり、いちゃついたりできないからさ。裕太のスーツ姿、七五三みたいで可愛いし。」
成人男性に七五三さんみたいで可愛いとか、もはや貶してるだろがよ。はー、落ち着け俺。怖くなったり苛々したり、情緒不安定過ぎる。このサイコな変態とももうお別れなんだ。あと少し頑張れ。
俺は息を整え、遂に、星野の持つ俺の全てのデータを消すことが出来た!
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