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第44話
星野と縁を切って数日、俺の日々は久々充実していた。
陽子ちゃんと2回もデートをした!仕事あと星野に拘束されない分、俺は仕事を早く帰りたい。だから昼休みも返上で仕事に燃えていた。
「部長、資料持ってきました。」
あ、佐野さんだ。佐野さんは美人揃いの秘書課の中でも特に綺麗な人だ。目の保養にと、つい手を止めて見てしまう。星野に付き纏われていた頃は、そんな余裕もなかったからな。佐野さんのタイトスカート姿、職場だというのに妙な色気があるよなぁ…と、呑気に考えてると、
ブーブー
あ、陽子ちゃんかな?
今となってはちまちまと折角の陽子ちゃんとのやり取りを消す必要もなく、なにより好きな時に連絡が出来て、やり取りもスムーズだ!
俺は仕事をする手を止めて、スマホを取る。しかし次の瞬間には、取らなければ良かったと後悔する。
《裕太、昨日無視したでしょー。今晩は?》
星野だ。正直、コイツからの連絡はブロックしたい。しかし…得体の知れない恐怖がまだあって、ブロックできずにいた。とりあえず、スルーだ。仲良くご飯食べて終わりとか、コイツに限ってあり得ない。星野が俺に見せた俺の動画…思い出すと身震いしてしまう。
ブーブー
《ね〜。》
ブーブー
《返事くれるまで連絡するよ〜。》
あ゛ーーーーも゛ーーーーー!!
俺はさささっと簡単に打つ。
〈行かない〉
行くわけないだろ!まだ俺が星野に会いに行くと思ってることに、逆にびっくりなんだが。
《え〜、明日は〜?》
〈もう俺に連絡するな〉
これに尽きる。兎に角、仕事だ仕事!あぁ、星野なんかを思い出したせいで、弁当の味がしない。考えるな、考えるな。俺は折角の弁当をフードファイトの勢いで、口いっぱいに詰め込んでガツガツと咀嚼する。
「!!」
そうこうしていると、不意にゾクッと背筋に悪寒が走った。この嫌な感じ…俺はガバリと星野を振り返る。星野の席は俺の数列後ろだ。昼休みなので人もまばらで、案の定星野と目が合った。もう俺を見るなっっ!と睨むも微笑まれた。
もー、何なんだあの変態!まさか…また俺で変な事考えてないよな?大丈夫だと分かっていても、今までがあるからな…星野は怖い。気をつけよう。
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「お疲れーーっす!吉崎、山本!山本まーたジンジャエール飲んでんの?」
週の後半、永井の呼びかけで同期で呑み会が開かれていた。その呑み会中に吉崎と話していると、永井が話しかけてきた。
「今日は、りんごジュースだ!」
「なんか……ジンジャエールより下がったな。」
永井が呆れたように笑うが、俺はそんな事が気にならない程にハイテンションだった。こんなふうに自由に飲み会に行けるなんて、星野に縛られてた時からするとかなり自由で楽しい!嬉しい!
「そういや、星野も後から来るって。」
「……え…あそっ。」
「なんか、星野、今、経営企画部に片足突っ込んでるらしいぞ。今日もその関係で遅れるみたい。すげーよなー。いやー、星野ってすげーよな。」
「ソダネ」
何故か永井が俺の反応を伺いながら、星野の話をしてくる。
「仕事出来るし、スーパーイケメンだし、人望あるし、なんでも出来るし、」
「ソダネー」
しかし正直もう星野の話なんて聞きたく無い。俺の反応も適当になってくる。
「他の会社でも、イケメン過ぎて有名らしいぞ。」
「フーン」
「凄い優良物件だよなー。アイツの彼女とか超幸せそう。山本もそう思わない?」
「はっ。」
最後は流石に鼻で笑ってしまった。星野…とんだ優良物件だな。
「?永井、何が言いたいんだ?どした?」
きょとんとした顔の吉崎が永井に質問した。確かに、永井は唐突に星野の話なんてして、いったいどう言うことだ?
「永井、永井が星野のこと好きなのにごめんけど、俺、星野の話はあんまり…その、好きじゃないんだ…。」
「?」
「…」
ちょっと真面目なトーンで俺は永井に切り出した。吉崎が今度は不思議そうに俺をみていた。流石に言い過ぎたかなとは思ったが、これからもまた延々と星野の話をされると辛い。折角の楽しい気持ちが台無しだ。永井はまじまじと俺をみて、「はーはー、やっぱりな。これは未だ落とせてませんね。」とかぶつぶつ言っている。
「ま、まぁまぁ…。えーと、あぁ、そうそう!永井!紹介してくれてありがとうな!」
「おう?いいってもんよ!上手くいって良かったな!」
「?どうしたんだ?」
俺たちの間に流れる謎の気まずい空気を変えるべく、吉崎が気を利かせて話題を変えてくれた。しかし、お礼を言う吉崎に俺はハテナだった。
「永井が俺に彼女紹介してくれたんだ。それで、今付き合ってる。」
「え!そうなんだ!良かったな!」
「はは、うん。ありがとうな、裕太。」
なんと、吉崎はさっさと次の彼女を作っていた。くそー!俺が星野にあんな事やこんな事をされている間に…羨ましいっ!
「山本は作らねーの?彼氏とか。」
俺が羨ましい羨ましいと騒いでいると、永井が笑いながら聞いてきた。本当に永井はいつも直球だ。しかし…
「なんで、彼氏なんだよ!彼女とかだろ。」
そこ、重要だぞ。
「えー、彼氏でもいいじゃん。前から思ってたけど、山本って男同士に偏見あるよね。」
「そんなことないよ!自分はちょっと…違うかなってくらい…。」
確かに。俺は多少偏見があったかな…。良くないよなぁ。そんな俺の揺らいだ気持ちを察したかのように、永井は続けた。
「それって、つまりは、偏見あるじゃん?因みに吉崎の相手も男だよ。Ωの。」
「え!」
びっくりして思わず大きな声を出して吉崎をみてしまう。吉崎も満足気にコクリとうなづいている。
「同期内でも結構同性カップル多いよ。」
誰と誰もそうで、さらにあの人もこの人もと、永井はつらつらと同性カップルの名前を挙げた。聞くと結構な数がいる様だ。確かに冷静に世の中を見ると、同性カップルは多い。俺みたいなのが古風と言われる位だろう。
「山本は案外優柔不断なとこあるから、営業とかやってるグイグイなタイプの奴がいいぞ。」
そうかな。陽子ちゃんも、営業だ。しかし、そんなにグイグイってタイプではかいかな。
「あと、結構いろんな人と遊ぶの好きそうなくせに、引っ込み思案なとこあるから、皆の呑み会の幹事とかしてる、人脈も幅広い奴とか合うな。」
まぁなー、吉崎とばっかで、中々友達作れないんだよな…。
「そして、山本は聞き上手だし、良く喋るタイプの男とかさ!合ってるよ!」
男は置いといて、確かに、喋る相手といる方が気は楽だ。
「つまりは、俺!」
「「は?」」
え、何?
思わず、吉崎と俺は同時に間の抜けた声を挙げた。
「あ!星野ー!お疲れー!!」
「星野くん、遅ーい!」
「!!」
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