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第54話※星野視点

「中、やだっっ……、やっだって!あっ、や、やぁっっ……!!」 「っ……!」 裕太の言葉を無視し、逃げる体を抑えつけて中に出した。 「はぁ…」 出したばかりなのに、裕太の歪む顔を見ていたらまた興奮が昂まる。 可哀想。 可愛い。 酷くしたい。 優しくしたい。 壊したい。 壊れて欲しくない。 相反する不気味な気持ち。 いつかこの気持ちで裕太をなくしてしまわないか、そんな不安はいつも心の片隅にあった。 ---- 「星野〜、俺の彼女浮気してたわ!!」 出張で訪問した企業からの帰り道、先輩が急に漏らした。 「結婚するつもりだったのに…!辛っ!」 「へー」 辛いと言う割に元気そう。 あ、電車きた。 「先輩、電車来ましたよ〜。とりあえず乗りましょう〜。」 「星野…お前は良いよな〜。浮気をしても、浮気はされなさそう…。」 「ははは、そんな事ないですよ。」 「はー、じゃあ浮気されたら、お前ならどうする?」 … 「ははっ、どうしましょう?」 俺はニコリと先輩に笑った。 「くそー!めっちゃくちゃ余裕だな!!今晩は呑みに付き合えよ!」 「すみません〜。俺、これから帰るんです。」 「え?まじで?東京着くの深夜じゃん。怠くない?」 「いえ〜。可愛くて愛しい彼女が待ってますから。」 「ぐーーー!お前には一生勝てんな!お前の彼女、星野みたいなイケメンにこんなに愛されて、浮気とは無縁だな。」 …はは。 先輩、俺の彼女、浮気してます。 ---- 「はー、早く触りたい〜。」 帰りの新幹線で、スマホを開き裕太の写真を眺める。早く本物に触りたい。触ったら怒られる。でもそれもじゃれ合っているようで嬉しい。満たされる。 寧ろ側にいないと、不安。 「…今日は、まだ会社の最寄り駅か。こっち側の出口なら安い居酒屋だし…吉崎か。」 ふむふむ。 俺が自分のスマホで見ているのは、裕太のスマホの現在位置だった。今のところ、合法的に首輪付けて繋げないんだから、随時監視する必要はあるよね〜。裕太がこの手の事に疎くて助かった。こうやってみているから、時々、裕太がいつも行かないようなお店に行ってる事も知ってる。まるでデートで使う様な店。 本当は裕太とする時にゴムのありなしなんてどうでも良い。そりゃ、なしが良いけど。裕太との子なら大事にしてあげたいから、我慢して付けても良い。けど久しぶりに裕太に会いに行った時に、裕太が差し出したもの。いつも俺は自分で用意していたから、裕太が俺の為に用意したりはなかった。なのに、あれは誰の為に用意したの?そう考えると思わずカッとなってしまった。 そもそも裕太の家に行ったあの日に、久々に裕太のスマホチェックもするつもりだった。しかし久々の裕太に自分を抑えきれず、確認が出来なかった。今夜あたりまた確認してみよう。 ---- 「裕太ー、ただいま〜。」 家に着いたのは、深夜0時過ぎ。遅いが明日は休日なので、裕太が起きているかもしれないと少し期待していた。 「…寝ちゃったかぁ〜。」 最初は驚かせれたけど、最近は寝ちゃってるんだよなぁー。よまれてるな。まぁ、靴はあったからベッドに行けば居るんだし。いっか〜。 とりあえず、風呂に入ろう。 パチリと照明をつけると、珍しくダイニングテーブルの上にワインのボトルとコップが置いてあった。 「あれ、珍しいな。」 裕太は酒を殆ど飲まない。実際弱いから、酔ってうっかりΩの自分に危機が及ぶのを警戒しているみたいだ。俺も裕太のお酒の弱さの恩恵には結構あずかったしなぁ〜…、正しい判断だ。 けどまた酔い潰れてる裕太に色々したいなぁ。とか、しょうもない事を考えていると、ふと側に置かれたスマホに気づいた。 「これは、本当に結構酔い潰れてるな…。」 俺のスマホチェックに気付いてから裕太は、必死に自分のスマホを隠すか自分のそばに置いて寝るようになった。まぁ、いつも大体見つけて、無理矢理チェックしてるけど。必死な姿が可愛いんだよね〜。でも必死って事は何かあるって言っているようなもので。 酔い潰れてるなら、また悪戯しようかな〜。でも裕太にバレて、それを回数にカウントされたらつまんないな…。 俺は裕太のスマホを手に取って、パスワードを入力した。 ……陽子? … 〈あの時はごめんね…。〉 《大丈夫だよー。その人のタイミングあるし。ただ、私は裕太くんが大好きだよ。》 〈俺も、す ……す……す 「…っ!」 ガシャンッッッ!!! 急に目の前が真っ赤になって、裕太が置いていたグラスを投げてしまった。どくどくと、頭に血が昇る。 「ぁあっっ!くそっ!」 ガンッ しかしそれだけでは治らず更にワインボトルを投げると、ボトルがフロアライトにあたり思いの外大きな音をたて倒れた。その音で我にかえる。 ハッとして、寝室のドアを見るが、裕太が起きた気配はしなかった。 「……はぁっ…」 ぐしゃりと前髪を触る。 ダメだ。手が震える。 『俺〈も〉、す』す……。裕太は…、裕太は、他の、女の事を… 好き。 「…っ、ふっ…」 頭にその言葉が浮かんだ瞬間、ぼたぼたぼたと嘘みたいに涙が溢れてきた。自分で自分に驚く。こんなふうに泣くなんて。 「うわぁ……っ、」 最悪だな。 ---- 「あ、裕太、おはよう〜。」 「おかえりなさいっっ!」 「…」 家に帰ると裕太が走り寄ってきて、抱きついてきた。微かな苛立ちもあったが、裕太の温もりが嬉しくて少しホッとする。 「すっ、すみませんっっ!!」 「……」 次の言葉を待った。 裕太は、俺のだよね?裕太の次の言葉に期待と恐怖が渦巻く。 「フロアスタンド……と、部屋、荒らして…。あとお酒も…。」 「…………なんだそっち…」 まぁ、これが現実だ。 自分の口から出た言葉は、酷く冷えていた。 「部屋は俺が昨日やっちゃったんだ。だから大丈夫だよ〜。昨日、帰って来た時、部屋が暗くて、こけちゃって色々倒しちゃったの〜。」 「へ、へぇ、そうなんだ…。」 大丈夫、大丈夫。裕太の気持ちなんて最初から分かっていた。それをどうこうなんて出来ないことも理解していた。だから無理矢理でも側に繋いでいたんだ。また立て直せば…。大丈夫。 大丈夫…なのかな。これまで余裕だったのは、これまでの俺には本当に大切なものがなかったから。今は?裕太が居なくなったら、俺はまた独りで何もない。凄く怖い。どうしたら良いんだろう。自分の気持ちがコントロールできない。どうしたらいいか分からない。怖い。身勝手な事にも、そればかりが頭を占める。 「てか宗介、疲れてないか?」 「……疲れてる。」 悶々と考えていると、裕太が話しかけてきた。 なんで、何度やっても裕太は俺を好きになってくれないんだろう。 俺にも、好きって言ってよ。 「やはりか。俺、あとやっとくから、宗介は寝てていいよ。」 「……寝れない。」 もうやめたい。ふつふつと醜い衝動が自分のから溢れ出す。 「!!うっ、たっっ!」 そして、湧き出して溢れた衝動のまま裕太を押し倒した。 「そ、宗介?」 「…」 戸惑った裕太の目に俺が映る。今の裕太は俺だけを見てる。これが俺の欲しい状態に思えた。 「…っ、宗介?なんだよ…」 「……」 「そっ、…!!がっ、あ゛つっっっ!」 だからこのまま時を止めたい。 馬鹿みたいだが、ここで裕太と俺の時間を止めるには、こうしたらいいんじゃないかと本気で思った。裕太の首を絞めた。裕太が暴れる。 暴れる裕太の口から涎が垂れて、美味しそうで舐めたら美味しかった。心は冷えているのに、無我夢中だった。しかし、そこに急にしょっぱさが混じった。ふと裕太を見ると、泣いていた。 「!」 …俺、何してんだ。こんな事して。 「どうして…」 好きなってくれないの?ふらふらと、行っちゃうの? 「はぁっっっ!ゲホッッゲホッゲホッっっ!はぁっはぁっはぁっ!!」 これではダメだ。 手を離すと裕太が苦しそうに咳き込んで、ガタガタと震えていた。凄く可哀想。申し訳ない。今度はそんな気持ちが溢れてくる。 「…裕太、裕太、ゆうた……ゆうた…ゆうた…ごめん。ごめんね…。ゆうた…。」 こんなに好きになっちゃって、勝手に依存しちゃってごめんね。 でも俺を独り、おいて行かないで欲しい。

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