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第55話※星野視点

はぁ。前は好きだった事が今はそうでもない。テンプレ通りに病んでる。重症だな。 俺は心の中で自嘲しながら、目的もなく専門店でアルコールをみていた。見ている文字が右から左に抜けてゆく。あーダメダメ。本当に、だめ。 「おー、宗介じゃん。」 「玲次。」 声をかけられて振り向くと、玲次がいた。いつもの如く、ゆったりと近づいてくる。 「お前、それ飲むの?」 「あー、うん。どうしようかな〜。」 「…」 「…」 玲次のアーモンド型の目が、すっと細まりこちらの様子を伺っているのがわかった。不味いなぁ。 「お前、それ買えよ。お前んとこは…裕太いるだろうから、うちで飲むか。」 「うん。いや、うちで良いよ。うちの方がこっから近いし。」 「……ふーん。そっ。」 ---- 「お前なに。ついに裕太殺した?」 「え!!?素でびっくり!はははっ、玲次こそ何?!」 飲み始めて少しして、玲次が切り出してきた。自分の話は今はしたくない。だから適当にかわすつもりでいたのに、切り出し方が奇抜過ぎて気がついたら食いついていた。 「いや、そんな感じの雰囲気するぞ。」 本当にビックリ。ほぼあってるね。玲次は鋭いから、昔からなんでもすぐ見つかる。 「まぁ、遠からず近からずかな〜。」 「ははっ、笑えるな。もっと話せよ。」 えー、笑える話? 玲次は俺の話を聞く準備をするがごとく、ワインをぐびりと飲んだ。 「えー、やだ。俺こんなにしょんぼりしてるんだから、玲次、趣味悪いよ〜。」 「いつも裕太の事、ペラペラ話す癖に。…さては相当だな。」 「…ねー…。」 そうそう。相当だよ?無理心中したくなる位だよ? 玲次はまた、ふーんと興味があるのかないのか、微妙な反応でワインを一口飲んだ。 「お前なんて、裕太にとったら当初の好感度0かマイナスだったんだろ。」 「…」 「そんな好感度なのに、あんなドン引きな事ばかりして、」 「…」 そうだよね〜。もっと好感度上げるべく優しく… 「色々やるならもっと徹底的に、逃げ道無いとこまで追い込んで、梯を全部落とすか、」 … 「自分なしじゃ相手が生きられないくらい堕として、這いあがれなくしろよな。お前のやり方は半端だからそうなるんだ。」 「………………ふっ、ぶふ!あははは!」 「なんだよ。」 「いや、玲次も相当だよね。」 そうだ。玲次が普通の思考をしている訳ない。自分ではまともな、むしろ善良な人間だと思ってるみたいだけど、俺はわりとダメな部類の人間だと思う。じゃないと、俺たちとこんなに仲良くないよね? 「んー、なんか、あれだな。持つべきものは友だね。」 「貶すな。」 「褒めたよ?1番元気出る言葉だったし〜。ちょっと立ち直れるかも。」 「なら、まー、良いんじゃねーの。次は失敗するなよ。」 次はって…玲次は最後まで面白いな。 そうだな。考えて悩むなんてらしくない。そんなの、意味のない事。裕太が俺だけをみて、俺のことだけで頭がいっぱいになるように。その為に次はどうしようかなぁ〜。 そう考えていると、味も香りもしなかったワインが急に香ってきて、酷く美味しく感じた。 ---- 「今晩は。君、よーこちゃん?」 「…」 オフィスビルの入り口で、見つけたその子に声をかけた。振り向いたのは裕太の相手の女。 ふーん。正直、もっと分かりやすくあざと可愛い系かと思った。生田さんとも似てない。てか、なんでだよ。普通にαっぽいじゃん。ストレートのワンレン。体の線が程よく出るトップスにタイトスカート。ヒールは少し高め。バックは流行りのブランドではなく、仕事での使い勝手重視系。雰囲気もキツめで、隙も可愛げもない女って感じ。 「何ですか?誰ですか?」 「俺、はなえちゃんの友達なんだ〜。ちょっと話せる?」 永井の合コンに居た女だから探すのは簡単だった。同じ大学だったし。その界隈には顔も効くし。 「…」 陽子ちゃんは疑わしげにこちらをジロリと見る。 「裕太の事で、ちょっと話あってさ。ね?」 「あぁ。はい。良いですよ。」 陽子ちゃんは裕太の名前を出したらニコリとした。この子、本当に裕太の事好きだね。まぁ、そう言ってたもんね。イラッとするな。 そのまま、2人で近くのカフェに入った。 「それで、裕太くんの話って何ですか?」 陽子ちゃんはさっきまでの態度から打って変わって、愛想よく聞いてくる。裕太の友達が来たとでも思ってんのかな。 「あのね、裕太は俺の彼女だからさ。その話しに来たの〜。」 「…はぁ。」 俺がにっこりと話すと、陽子ちゃんの笑顔がスッと引っ込む。場の空気が一気にピリピリとし出した。 「だから、裕太にちょっかい出すのはもう辞めてくれる?」 「…ふふ、彼女って、本当?裕太くん、彼氏の事とか全然言わなかったけどなぁ?」 「はは、そんなの関係ないから。」 んー、この子、曲者。 俺の言葉を小馬鹿にした様に笑ってくる。自分が裕太に好かれてる自信がチラチラ見えて、またそれが勘に触る。 「私、裕太くん好きなんで。それは無理。てか、私と裕太くんキスもしたし。裕太くん、キスしたらポーッとしちゃって、顔真っ赤で「あー、もー、煩いなぁ。」」 俺が遮ると、ムッとした顔で陽子ちゃんが黙った。 「じゃあ、こうしよっか。」 「…なに?」 あーも、苛々し過ぎて、意に反して更に笑顔になってしまう。少し冷静にならないと。 「陽子ちゃん、お仕事大好きだよね〜。」 「…」 陽子ちゃんの友達に色々聞いたんだ。だから結局、陽子ちゃんの仕事に力添えする話で釣ると、陽子ちゃんは簡単に頷いた。女の子のαって、こういうタイプ多いよね。実家の利権利用するからまたちょっと面倒いが、そこは仕方ない。 「はぁ、星野くんって、なんなの。私、結構裕太くん気に入ってたんだけどなー。裕太くん、私のお嫁さんにしたかったなぁ。」 陽子ちゃんが、この期に及んでまだうだうだ言う。 「…ふーん、じゃ、一回だけ、裕太と楽しい事させてあげようか?」 「はぁ?」 俺がニコニコと提案すると、陽子ちゃんがまた不審げに眉を寄せた。でもしっかりと話に食いついてくる。 「陽子ちゃん、裕太に全然本性見せてないよね〜。俺、結構分かるよ〜。αの、陽子ちゃんの本性。」 「…ふふ、それ知った上で、裕太くんと楽しい事させてくれるの?なんか裏ありそうだよね〜。」 俺の言葉に一瞬きょとんとした陽子ちゃん。しかし次の瞬間には、否定もせずクスクスと笑った。αなんて皆こう。 「そりゃ条件もあるけど。寧ろ、無条件とかあり得なくない?けどきっと、裕太とする事は、何であれすっごく楽しいよね〜。」 「まぁ…」 陽子ちゃんが黙り込む。 案外、分かり易いところは可愛い子じゃない? 「本性出すって割り切ると、色々と好きに出来るしね〜。今まで随分我慢してたでしょ?あーあ、でも裕太、泣いちゃうかなぁ。でも結局全身真っ赤にして感じちゃって、すーぐトロトロになっちゃうんだろな〜。」 「…」 「嫌々言いながらも健気に感じちゃって…、自分の下でドロドロになっちゃってさ、そーゆ姿見ると満たされるよね〜。征服欲、支配欲…。しかも相手はそこら辺のただのΩじゃないし。」 「…」 俺思うんだけど、陽子ちゃん、割と危ない子だろな。 「陽子ちゃんの、大好きな、好みのΩ。裕太だからね〜。」 うんうん。欲しがっている物を知ってるαほど、扱い易いものはないよねー。 「……条件て、なによ。」

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